Today's Insight
2025/9/8 10:15作成
米国株:景気悪化懸念が利下げ期待を上回るか
■ 先週公表された経済指標は労働市場の悪化が基調的なものである可能性を示唆
■ 企業業績見通しの悪化が利下げ期待を上回れば、景気減速懸念の強さが株価を左右か
7月の求人労働異動調査(JOLTS)では求人件数が718.1万件と前月(735.7万件、8万件下方修正)から減少し、市場予想(737.8万件)を下回った。求人倍率(0.99倍、求人件数/雇用者数)は2021年5月以降で初めて1倍を割り込み、求人倍率と失業率の関係を示すベバレッジ曲線上は失業率の急上昇を警戒すべき水準に差し掛かっている。一方、レイオフ・解雇件数(178.4万件)や解雇率(1.1%、レイオフ・解雇件数/雇用者数)は5月から増加・上昇基調となっているものの、2021年以降の変動の範囲内での動きとなっており、景気後退懸念が強まり解雇件数が急増しているとは判断されない。
こうしたなか8月の雇用統計では非農業部門雇用者数(NFP)は前月比2.2万人増と市場予想(同7.5万人増)を下回った。7月分は同7.3万人増から7.9万人増に上方修正された一方、6月分は同1.4万人増から1.3万人減に下方修正された。3カ月平均では7月(2.8万人増)、8月(2.9万人増)と非常に低い水準となるなか、失業率は4.3%と前月(4.2%)から上昇し、労働供給より労働需要の悪化ペースが上回っていることが示唆される。なお、9日には雇用統計の年次改定(速報値)が発表される。昨年8月の同改定では、2023年4月から2024年3月の1年間の非農業部門雇用者数が81.8万人下方修正され、労働市場の基調が想定より軟化していると受け止められた。今次局面では労働市場の動向が利下げペースを見極めるうえで重要であり、同改定には警戒感を高めた方がよさそうだ。
S&P500の向こう1年予想株価収益率(PER)は22.5倍と2018年以降の平均(19.1倍)を大幅に上回っている。非常に強い割高感が正当化されている一因として、米連邦準備理事会(FRB)による利下げ期待が挙げられる。S&P500の株式益回り(PERの逆数)は4.44%で、米10年国債利回り(4.09%)との差(益回りスプレッド)は0.35%にとどまり、株式投資への期待リターンは米国債をわずかに上回る程度であることを示唆する。FRBが利下げサイクルに移行すれば、米国債利回りの低下により益回りスプレッドが拡大し、株価の割高感が緩和することが期待される。ただ、景気減速が想定以上となり、企業業績見通しの下方修正が優勢になるとの見方が広がれば、株価は利下げ期待では下支えしきれずに下落基調となろう。当面は景気減速懸念の強さが株価を左右しよう。
投資調査部長
山口 真弘