Today's Insight

2025/10/29 10:30作成

米国債:イールドカーブのメッセージを読む

■ 米国では長短金利の再逆転が視野に入りイールドカーブに基づく景気後退確率は低下している
■ 金利の期間構造からは当面の利下げ継続と中立金利水準付近での利下げ終了が見込まれる

 米国では9月16、17日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で約9カ月ぶりに利下げが再開され、最新の「経済見通し概要(SEP)」の中央値に基づくと年内に0.50%の追加利下げが見通されている。年末には政策金利の水準が現在4%付近で推移している米10年国債利回りを下回り、長短金利の再逆転が視野に入る状況となっている。

 NY連銀は米国債の利回り曲線(イールドカーブ)の傾斜から今後12カ月間の景気後退確率を毎月算出している。期間3カ月と10年の利回り差(以下、長短金利差)に基づいて算出され、最新データである9月時点の今後12カ月間の景気後退確率は27.42%となっている。サームルール景気後退指標が閾値の0.5%を超過した昨年8月には60%超に達していたが、政策金利水準の低下や先行き複数回の利下げ観測を背景に期間3カ月の利回りは米10年国債利回りよりも大幅に低下し、景気後退確率は低下傾向にある。

 10年国債利回りは潜在成長率や期待インフレ率など主に長期的な均衡水準に基づいて決定され、3カ月国債利回りは専ら今後3カ月間の金融政策への期待で水準が定まるため、利回り差は大幅な利下げ局面で拡大(もしくはマイナス幅が縮小)する傾向がある。そのため長短金利差は、本来、金利の期間構造に反映される政策金利の調整幅やその継続期間を示している。大幅な政策金利調整(利下げ)が必要となるほど景気後退に陥る確率も高まるため、派生して景気後退の早期警戒指標の意味合いを有するようになった。

 米労働関連統計の悪化が明確となり米連邦準備理事会(FRB)の利下げ再開の可能性が高まった今年8月以降、米国債利回りは全年限で低下し、イールドカーブは傾斜化(スティープニング)した。ただし9月の利下げ再開以降は期間2-10年、5-30年の利回り差拡大が一服しており、当面の利下げ継続と中期的な利下げ終了が織り込まれていると解釈できる。ターム物国債の利回りがほぼ同ペースで緩やかに低下している点からは中立金利水準を下回る利下げや景気後退の兆候はうかがえず、全年限で利回り水準が切り下がっている点を踏まえると利上げへの転換が差し迫っていることも示唆されていない。これらの状況に変化がみられない限り、米10年国債利回りが金融政策要因で変動する余地は徐々に縮小し、潜在成長率や期待インフレ率などに基づく長期的な均衡水準に収束していくことが想定される。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏

プレスティア インサイトについて

マーケット情報