Today's Insight
2025/6/12 11:50作成
スイス中銀(SNB)とスイスフランの動向を整理
■ SNBは6月にゼロ金利政策へ回帰し、年内にマイナス金利政策へ踏み込む可能性が高いとみる
■ ただし、米国との関係や「安全通貨」への注目度から、SNBによるフラン安誘導は難しい状況
本稿では、スイス国立銀行(中銀、SNB)とスイスフラン(フラン)の動向について、(1)マイナス金利政策復活の可能性、(2)フランを取り巻く環境、から整理したい。
(1)SNBは6月19日に結果が公表される金融政策会合で、政策金利をゼロ%へ引き下げる公算が大きい。一部ではマイナス金利への引き下げ観測も浮上している。シュレーゲルSNB総裁は、就任直後の昨年11月からマイナス金利導入の可能性に触れてきたが、5月6日と同16日にも改めて言及した。また、チュディンSNB理事は4月3日に、物価安定に必要な場合はマイナス金利が実際に役立つ手段と述べた。そうしたなか、スイスの物価は鈍化傾向が続き、6月3日に公表された5月の消費者物価指数(CPI)は、総合が前年比0.1%下落とSNBの物価目標レンジ(同0-2%)を2021年3月以来初めて割り込んだ。ここまでの中銀高官発言と物価動向を踏まえると、遅くとも年内にはマイナス金利政策へ踏み込む可能性が高いとみる。
(2)2025年のフランはSNBの利下げ継続にもかかわらず、6月11日終了時点で対ドルがプラス9.6%、対円がプラス0.9%と、堅調に推移。注目したいのは、今年3月に政策金利水準が逆転した円(当時、日本は0.50%、スイスは0.25%へ利下げ)に対しても上昇している点や、米「相互関税」が予告された4月2日以降にフラン高が大きく進んでいる点である。これらの状況から、今年のフランはここまで、「低金利通貨」よりも「安全通貨」としての性質が強く意識されていると解釈する。そうしたなか、6月5日に米政権が公表した外国為替政策報告書では、スイスが再び「監視リスト」へ追加された。対米貿易黒字と経常黒字の大きさが理由とされる。
直近の状況からは、SNBによるフラン安誘導は難しいと考える。米国との関税交渉が続く状況での「監視リスト」入りで、SNBの為替介入実施は難しくなったと思われる。また、利下げによりフラン安誘導を狙っても、足元の金融市場は「安全通貨」としての性質へ目が向いている。6月に入り、SNBが注視する対ユーロでフラン安が進んでいる点も踏まえると、6月金融政策会合でSNBが大幅利下げに踏み込む可能性は低いとみる。仮に利下げ幅を0.50%としてサプライズを図っても、フラン安基調へ転じるのは難しいのではないか。米政権との関税交渉は注視すべき材料だが、当面の間、フランは対円や対ドルでは底堅い展開を予想する。
投資調査部
シニアマーケットアナリスト
合澤 史登