Today's Insight

2025/4/14 11:30作成

日本:米関税引き上げによる経済への短期的影響

■ 米関税引き上げの影響は、企業収益悪化を通じて設備投資や個人消費に及ぶリスクがある
■ 金融市場の混乱のなか日銀は当面様子見を続けるものの、利上げ継続方針は維持する可能性

 米政権が4月2日に相互関税の詳細を発表して以降、朝令暮改を繰り返す政策に翻弄され、金融市場は乱高下が続く。10日の米国の決定を受けて、日本への相互関税は当初の24%から10%へと90日間引き下げられ、自動車や鉄鋼・アルミへの追加関税は25%が維持される。また11日には、スマホなどの電子機器が相互関税から除外された一方、14日には半導体関連に焦点を絞った関税の詳細が発表される予定であり、政策は二転三転している。今回は米国の関税引き上げによる日本経済への影響について、短期的目線で整理したい。

 米関税引き上げの直接的な影響は、まず輸出の減少や企業収益の悪化として現れる。米国は日本にとって全体の20%を占める最大の輸出先であり、そのインパクトは大きい。2024年の対米輸出額21.3兆円を基に試算すると、相互関税、自動車や鉄鋼・アルミ関税の引き上げによる負担増は約3兆円(日本のGDP比0.5%)にのぼる。日本企業がこれをすぐに米国の消費者に転嫁するのは難しいとみられ、一部は企業収益を圧迫することになるだろう。

 さらに影響が波及すれば、緩やかに進んでいる内需回復が腰折れするリスクが浮上する。法人企業統計によれば、全産業の経常利益は昨年10-12月期に過去最高を記録し、企業の設備投資も回復基調が維持されている。2月の実質消費活動指数(旅行収支調整済)は前月比1.2%上昇の堅調な伸びとなり、物価高の影響で弱含んでいた個人消費も回復しつつある。堅調な企業収益にも支えられ、春闘(第3回集計)の賃上げ率は5.42%と高い伸びを記録し、所得の改善による消費の底上げ期待されるところだ。ただし今後の懸念として、米関税引き上げによる企業収益の悪化で設備投資が抑制され、賃上げ機運も大きく損なわれるリスクが高まっている。そうなれば個人消費は再び低迷し、緩やかながら進行している前向きな経済循環は腰折れするだろう。こうした状況を防ぐため、政府は対米交渉の開始に加え、影響を受ける企業に対する資金繰り支援の実施を決めるなど、夏の参院選を前に悪影響緩和に動く。

 一方日銀は、金融市場の混乱が続くうちは、様子見姿勢を続けざるを得ないだろう。ただし、国内のインフレ圧力に対する警戒感は強く、利上げ継続による金融政策正常化の方針は維持する可能性がある。これは米国との交渉で過度な円安誘導との批判を避けたい政府とも方向性は一致する。日銀にとって舵取りの難しい局面が続くことになるだろう。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加

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