Today's Insight

2025/10/10 11:00作成

米国経済:FOMC議事要旨からみる利下げの確度

■ 9月FOMC議事要旨では、FRB内のインフレ懸念が依然根強いことを示した
■ もっとも、雇用下振れリスクへの警戒感が勝っており、10月も予防的利下げが続く可能性は高い

 米政府機関は10月1日から7年ぶりに一部閉鎖された。8日の米上院の採決でも予算案が否決され、長期化の様相を呈している。議会予算局(CBO)の推計では75万人の職員が一時的に休職する。これまで政府機関の一部閉鎖が米国経済に与える影響は軽微であり、今回もその可能性は高い。しかし、今回は米政権が一時休職者を解雇する可能性を示す。政府が掲げる年内約30万人の政府職員削減はほぼ達成される見通しのため、この発言は交渉戦術の可能性もあるが、今回の政府閉鎖がこれまでより個人消費を強く下押しする可能性もあろう。

 9月16、17日開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨では、インフレ懸念から9月の利下げにも慎重な見方の参加者が一定数いたことが示された。9月FOMCでは、7・8月の雇用統計で鮮明なった雇用下振れリスクに対応し、25bpの利下げが決定された。決定に反対したのは、50bpの利下げを主張したミラン理事のみだった。議事要旨では、「大半(Most)の参加者は、会合までの期間に雇用の下振れリスクが増大し、インフレの上振れリスクは低下または増大していない」とし、政策金利の引き下げを支持したことが示されている。一方で、2%の物価目標に戻らなければ、長期的にインフレ期待が上昇する懸念があるとして、「数人(a few)の参加者が、今回の会合で政策を据え置くことに意義があり、そのような決定を支持できた」とされている。参加者の政策金利見通しからは、1名の参加者が今年の利下げは不要との見方を示していたが、議事要旨からは、おそらく投票権を持たないメンバーを含めた数名が利下げへの慎重姿勢をみせていたことが明らかとなった。先行きは、政策金利見通しでは年内あと2回の利下げが9名と中心的な見通しではあるものの、FOMC内でも意見は依然割れているだろう。足元の米連邦準備制度理事会(FRB)高官の発言では、継続するインフレ懸念や底堅い経済活動指標などを受けて、それほど利下げに積極的ではないものもみられる。

 しかし、議事要旨全体を通し、委員会が労働市場の減速や下振れリスクをより強く警戒していることは明らかだ。特に「採用・離職率の低迷」や「雇用増が一部の部門に集中している」など、労働市場のリスクに多くの議論が割かれていた。政府機関の一部封鎖により、9月の雇用統計の公表は見送られているが、1-2週間以内に終了すれば、10月28、29日のFOMCまでに、FRBがその結果を確認できる可能性はまだ十分にある。また、公表の延期が長期化したとしても、その間公表された民間の労働市場関連指標は引き続き労働市場の漸進的な軟化を示しており*、依然として10月も25bpの予防的な利下げが続く可能性は高いとみられる。

* 詳細は、PRESTIA Insight 2025.10.08「米国:民間調査が示す労働市場の現状」を参照。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加

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