Today's Insight
2025/1/8 11:20作成
2024年の新興国通貨:米ドル高進行の裏で
■ 2024年の新興国通貨は米ドル高進行に伴い大半が下落、上昇は香港ドルやタイバーツなど
■ (1)財政政策を含む政権運営の巧拙、(2)為替介入の方針、がパフォーマンスを左右した年に
本稿では、米ドル高が進んだ2024年の主要新興国通貨の状況を整理したい。対米ドルの一年間を通じた騰落率(データは全てLSEG)では、上昇が香港ドル(0.5%上昇)やタイバーツ(0.2%上昇)など一部通貨に限られ、特に2023年に好調だったブラジルレアル(27.4%下落)とメキシコペソ(22.8%下落)の弱さが目立った。他に日本円(11.4%下落)以上に下落したのは、西側諸国からの経済制裁が続くロシアルーブル(27.2%下落)、昨年12月に利下げへ転じたものの景気後退懸念が浮上したトルコリラ(19.8%下落)、昨年12月上旬に非常戒厳が宣布された韓国ウォン(14.0%下落)など、個別国の事情で通貨安が進んだ状況が確認できる。そうしたなか、2024年の新興国通貨相場のなかで共通の材料を探すならば、(1)政治・選挙関連と(2)中央銀行による為替介入の方針、の2点が大きく影響したと考える。
(1)主要新興国では台湾(1月)、インドネシア(2月)、ロシア(3月)、トルコ(3月)、韓国(4月)、インド(4-6月)、南アフリカ(6月)、メキシコ(6月)で大統領・国政選挙など重要な選挙が実施され、その結果が為替相場に影響した。例えば、南アフリカは国民議会選挙で1994年以降初めて与党が過半数割れとなったが、ラマポーザ氏が円滑に連立政権をまとめたこともあり、南アランド(3.1%下落)は昨年11月末時点では対米ドルでも上昇していた。一方、メキシコでは大統領・総選挙で左派与党が大勝して司法制度改革を含む憲法改正への傾倒などが嫌気され、ペソ安進行の要因となった。また、ブラジルでは昨年10月に実施された統一地方選挙の影響こそ限られたが、ルラ政権による財政支出拡大方針がレアル安進行の要因となった。
(2)為替介入を頻発した国の通貨は、その多くが小幅な下落率にとどまった。例えば、中央銀行が自国通貨防衛の姿勢を明確にしたインドルピー(2.8%下落)や管理変動相場制を採用する中国人民元(2.8%下落)が挙げられる。他にも、タイバーツ、インドネシアルピア(4.5%下落)、フィリピンペソ(4.8%下落)、韓国ウォンなど、2024年は特にアジア新興国で為替介入が目立った。1997年のアジア通貨危機以降、アジアの多くの国は変動相場制へ移行したうえで外貨準備を積み上げており、現時点で大規模な通貨危機が起こる可能性は低いと考える。ただ、2025年も米ドル高継続が見込まれるなか、多くの新興国で為替介入が実施される状況は続きそうだ。また、直近ではブラジル中銀(BCB)も通貨防衛に動くなど、積極的な為替介入がアジア以外の地域へ拡大している点にも注意しておきたい。
投資調査部
シニアマーケットアナリスト
合澤 史登