Today's Insight

2025/12/9 11:00作成

日本経済:実質賃金はプラスに向かう

■ 賃金は緩やかな上昇基調が続く一方、物価は高い伸びから減速へ。実質賃金はプラスに向かう
■ 日銀の継続的な政策正常化に向けては、引き続き政府との対話が求められよう

 8日に公表された10月の毎月勤労統計では、現金給与総額(前年比2.6%増、共通事業所ベース:同2.4%増)が9月(同2.1%増)から伸びを高めた。しかし、3%程度の高い物価上昇が続くなかでは依然力不足であり、実質賃金(同0.7%減)は10カ月連続での減少となった。10月の名目賃金の内訳をみると、基本給に相当する所定内給与(同2.6%増)が堅調な伸びとなり、そのうち一般労働者の所定内給与(同2.7%)が11月(同2.0%)から伸びを高めた。10月の一般労働者の所定内給与には、2025年の春闘での各企業の賃上げ分がほぼ反映されているとみていいだろう。春闘で3%台半ばでのベアが決定されたことを踏まえるとその伸びはやや見劣りするが、緩やかな増加基調が続く。一方、10月のパート労働者の所定内給与(同:3.3%増)には、10月から開始された最低賃金の引き上げの明確な影響はみられなかった。都道府県ごとの最低賃金の改定は、2025年10月から2026年3月までの間に順次発効することになっている。例年は10月中の発効が多いが、引き上げ額が大きい本年分については遅れて対応する地域も多く、その影響が確認できるまでしばらくかかる可能性があろう。

 先行きの賃金は構造的な人手不足を反映し、緩やかながらも増加基調が続くだろう。年末にかけては、堅調な企業利益を受けて冬のボーナス増が見込まれるほか、最低賃金の引上げが徐々に反映されることで、賃金は伸びを高めよう。一方、物価は減速が見込まれる。基調的なインフレ圧力は強い一方、食品価格の上昇率はこれまでの高い伸びからは減速し始めており、政府による旧暫定税率廃止に向けてのガソリン補助金拡大も下押し要因となる。そのため、実質賃金は年末から年初にかけてプラス転化に向かっていくとみている。また2026年度の春闘については、賃上げ交渉のベースとなる経済条件(労働需給のひっ迫、堅調な企業利益、高い物価水準)を踏まえれば、前年度対比ではやや鈍化しても底堅い着地が見込まれる。賃金の持続的上昇の条件は満たされる可能性が高いとみている。

 こうした動きは日銀の継続的な政策正常化を促そう。市場では日銀の早期利上げ観測の織り込みが進んでいるが、さらに先行きの利上げについては、リフレ的な政策を志向する高市政権の反発を招く恐れがある。高市政権との対話による日銀の難しい舵取りは続くだろう。この点、本日夕方の植田日銀総裁の講演で、先行きの政策方向性への示唆があるかも注目される。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加

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