Today's Insight

2023/11/22 11:30作成

直近の円相場:変動の背景は海外投機筋の動きと推測

■ 11月中旬にかけてドル円とクロス円での円安進行が、東京外国為替市場の話題をさらった
■ 経済環境は円安示唆ではなく、来年に向けて目先の値動きに振らされず動向を見極めたい

 10月初めから11月17日まで、主要先進国通貨のなかで円はカナダドルに次ぐ2番目の弱さだった。そうしたなか、ドル円は11月13日に151円92銭と昨年10月高値(151円94銭)付近まで上昇し、1990年7月以来となる152円台へ接近した。また、欧州通貨に対するクロス円も水準を切り上げ、ユーロ円は2008年8月以来となる164円台乗せ、英ポンド円は2015年8月以来となる188円台乗せ、スイスフラン円は過去最安値(2015年の一時的な変動を除く)となる170円台乗せをそれぞれ示現。盛り返した円安商状が、東京外国為替市場の話題をさらった。

 これらの円安進行は、円キャリートレード復活が背景との見方が市場での多数派とみられる。事実、通貨オプション市場では11月中旬にかけてドル円やクロス円の変動率(期間1カ月など)が大きく下がっていたうえ、日本と主要国との10年国債利回り差の変動とドル円やクロス円の連動性が薄れるなかで、前述の円安商状が確認されていた。

 ただし、円を取り巻く経済環境が円安示唆に振れていた訳ではない。むしろ、昨年の円安進行をもたらした「日本の貿易赤字傾向」と「日銀の金融緩和傾向」の2つの観点では、1年前と比べて円安要因は後退している。前者は、約20兆円だった2022年通年の貿易赤字額に対して、今年1月から10月までの累計貿易赤字額は約10兆円にとどまる。また、6月(430億円)や9月(624億円)は単月で黒字であり、赤字傾向は明確に弱まっている。後者は、本稿執筆時点で、短期金融市場での日銀のマイナス金利政策脱却は来年6月との織り込みだ。現在と、1年以上のマイナス金利政策継続が織り込まれていた昨年秋との違いは明らかであろう。

 一部投機筋の売買を集計する米商品先物取引委員会(CFTC)のまとめでは、11月14日終了週の円のネットショートポジション(円買い-円売り)の規模は約13万枚まで膨らんだ。この水準は、2013年以降でも計2カ月間しか到達していない。つまり、11月の円相場の変動は、海外投機筋の主導にとどまるとの推測だ。中旬までの円安進行は円売りポジションの積み上げ、足元の円高進行は米感謝祭前のポジション解消が、それぞれの値動きの背景だろう。まず、CFTCの次回発表で投機筋のポジション解消が進んだか、確認することになる。来年に向けて、ドル円ではいったん10月3日安値(147円37銭)を下回る値動きは短期的な行き過ぎとの見方を維持し、目先の値動きに振らされず円を取り巻く経済環境の変化を見極めたい。


投資調査部
マーケットアナリスト
合澤 史登

プレスティア インサイトについて

マーケット情報