Today's Insight

2020/9/14 11:00作成

FRBの新戦略は新たな金融緩和競争の号砲か

■ ECBのユーロ高警戒は、物価だけではなく、自国産業への危機意識の表れか
■ FRBの新戦略は新たな金融緩和競争の号砲となり、隠れた争点は為替レートとなる可能性も

 9月8日の本稿で、各国の新型コロナ対策とアベノミクスの類似性を挙げ、成長戦略の不在が中長期的な経済の停滞感に繋がり得る可能性を指摘した*1。アベノミクス下で進められた大胆な金融緩和は、名目上はデフレ脱却であったが、同時に自国通貨安(円安)に伴う輸出競争力の強化による景気浮揚も志向された政策であることに大きな異論はないとみられる。自国通貨安を志向する政策は、同時に海外製品の輸出競争力を相対的に引き下げるため、他国の犠牲のもとで自国の景気回復を目指す「近隣窮乏化策」と見なされるが、趨勢的な円高とそれに伴う日本の物価低迷が国際的にも際立っていたため、諸外国から一定の理解が得られやすい特殊な状況であった。ただし新型コロナ禍では、景気低迷が全世界で同時に生じているため、日本単独の問題と評価されていたアベノミクス当時と異なり、弊害を伴う政策は国際的に許容されづらくなっている。

 先月末以降、欧州中銀(ECB)がユーロ高に対する警戒感を強め、ラガルドECB総裁が先週のECB理事会後の会見で、通貨ユーロについて具体的に言及したことは、このような観点で捉えると、物価だけではなく、自国産業への危機意識の表れと解釈できる。同時に、景気回復を通貨安に求めざるを得ない現在の政策の手詰まり感も象徴していよう。3月に金融市場でドルが不足した際にはドル高への対応で各国の利害が一致していたため、抑制で各国が協調したが、その結果として現在も続いているドル安に対しては米国と諸外国との間で経済的利害が対立するため、政策的な協調は期待しづらい。このような状況で、8月26日に米連邦準備理事会(FRB)が平均物価目標などを含む新戦略を導入したことはドル安を一段と助長しかねず、ECBのユーロ高警戒を促すとともに、新たな金融緩和競争の号砲となる可能性がある。その隠れた争点は、物価や雇用情勢ではなく、為替レートとなることを暗示しているように思われる。

*1 PRESTIA Insight 2020.09.08「アベノミクスの相似形をなす各国新型コロナ対策」

投資調査部
マーケットエコノミスト
祖父江 康宏

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