Today's Insight
2025/9/2 11:30作成
インド:経済のファンダメンタルズは良好、外交に注目
■ 2025年のインドは本稿執筆時点で、株式と通貨の騰落率が他の新興国に対して劣後している
■ 高い経済成長率と物価の伸び鈍化はインド経済に追い風、対米通商交渉の長期化は逆風に
足元で堅調な新興国の金融市場において、インドの不振が目立つ。主要新興国株式市場の年初来騰落率(9月1日終了時点、現地通貨建て)では、チリ(プラス33.0%)、韓国(プラス31.0%)、ハンガリー(プラス30.7%)など30%超の上昇率の国もあるなか、インド(プラス2.8%)は後塵を拝す。通貨でも対米ドルの騰落率(9月1日終了時点)では、ハンガリーフォリント(プラス15.1%)、ブラジルレアル(プラス11.9%)、メキシコペソ(プラス10.5%)などに対して、インドルピー(マイナス3.0%)は軟調な推移が続く。
2025年もインド経済のファンダメンタルズは良好だ。4-6月期の実質GDP成長率は前年比7.8%増と、市場予想(同6.7%増)を上回る5四半期ぶりの高い成長率を記録した。また、7月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年比1.55%と中銀目標(2-6%)を下回り、追加利下げ余地を示唆する。そうしたなか、8月16日にモディ政権は物品・サービス税(GST)を10月に改正し、課税負担を大幅に軽減すると発表した。また、8月15日に米大手格付の一社は18年ぶりにインドの信用格付けを「BBB」へ格上げ。本稿執筆時点で他の大手格付会社は格上げに追随していないが、本来ならばこれらの材料はインドの金融市場にとって追い風と言えよう。
それでもインドの株式や通貨が他の新興国に対して劣後しているのは、トランプ米政権による関税賦課が逆風になっていると推測できる。米政権は8月7日よりインドからの輸入品に25%の関税を課したうえ、8月27日よりさらに25%を上乗せして最大50%への関税率引き上げを実施した。日本の内閣府によると、世界の財輸出全体に対するインドの比率は1.8%(2022年時点)と、インド経済は内需主導と位置付けられる。ただ、2023年度の国別輸出で米国は17.7%と最大の輸出国であり、その影響が懸念される形だ。モディ首相が8月31日から開催された上海協力機構(SCO)の首脳会議に参加するなど、中国・ロシアと米国に対して等距離外交の方針を堅持しており、米国との通商交渉は長期化するとの思惑が強い。
したがって、インドの株式や通貨が持ち直すかは、モディ政権の外交方針次第とみる。対米関税率引き下げの可能性が高まるかが、当面、インド市場復調のカギになると想定する。
投資調査部
シニアマーケットアナリスト
合澤 史登