Today's Insight

2025/6/10 12:20作成

ポンド高を考える

■ 英米貿易協定の早期合意や英利下げペース鈍化観測を受けて、ポンド高が進行した
■ 英雇用統計が低調となれば、景気先行きへの懸念からポンド高に歯止めが掛かる可能性も

 5月8日、英米両政府は新たな貿易枠組みに関する概要を発表し、10万台を上限に英国車に対する輸入関税引き下げや、一部の鉄鋼およびアルミニウム製品の関税免除で合意した。スターマー英首相は、英国のビジネスと労働者に恩恵をもたらし、主要産業における数千の雇用を守るものである」と強調。英米貿易協定が早期に合意したことで、為替市場は6月に入りポンドドルが1.36ドル台と3年4カ月ぶりの高値を付けるなか、ポンド円は196円台を回復し上昇機運が高まっている。

 だが、今回の措置は英国車の輸出枠が昨年と同水準にとどまるほか、大半の英製品には10%の相互関税が引き続き課される。すでに、英政府は気候変動対策の加速を表明、自動車メーカーは厳格な電気自動車(EV)義務化基準を受けて、工業閉鎖や従業員解雇に追い込まれている。英国では5月の製造業PMI(改定値)は46.4と前月(45.4)から上昇したものの、景況感の分かれ目となる50を8カ月連続で下回り、企業マインドの改善は小幅にとどまっている。

 今晩、英統計局が公表する2-4月の失業率は4.6%と2021年5-7月以来の高水準へ上昇、就業者数は前月比5万人増、平均賃金(ボーナス除く)も前年比5.3%増へ伸びが鈍化する見込み。労働市場の減速感が強まれば、同国のGDPに占める割合が60%超の個人消費が鈍化し景気先行きへの懸念が高まるだろう。ポンドドルは5月29日に1.3409ドル、ポンド円では3日に192円65銭の安値をそれぞれ付けて反転上昇しているが、雇用統計が低調となれば対ドルは2022年1月高値1.3748ドル、対円は節目の200円まで距離感を残し、足元の高値圏でこう着感が強まるとみている。


投資調査部
シニアFXマーケットアナリスト
二宮 圭子

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