PRESTIA Insight

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Today's Insight

2019/5/14 9:40作成

関税合戦激化で注目度が増すFRBの対応

■ 6月に見込まれる米中首脳会談での通商合意の可能性は低く、長期戦の様相
■ 「辛抱強く」様子を見る姿勢を明言したFRBは、今後、政策対応上の困難に直面する可能性も

 米通商代表部は米通商法301条に基づく対中制裁関税第4弾の品目リストを公表した。ほぼ全ての中国製品となる3805品目(3000億ドル相当)を対象に、関税が最大25%に引き上げられる。コメント募集、公聴会(6月17日)を経て最終決定される。コメント募集期間(公聴会後の反論含め42日間)は第3弾より約1カ月短く設定され、米国の強硬姿勢がうかがえる。

 6月28、29日のG20大阪サミットにて米中首脳会談が開催される見込みで、電撃合意および制裁関税撤回に一縷の望みが託される。ただ、今後1カ月余りでの信頼関係の修復は難しく、この可能性は極めて低いと判断せざるを得ない。現状、ベストシナリオでも、制裁関税発動留保のうえ、協議継続で妥結する程度だろう。中国共産党指導部が産業補助金の撤廃などの米国の要求を拒んだと伝わっており、中国は長期戦を覚悟しているようである。一方、米国は来秋の大統領選を控え、有権者に対して現政権の政治的成果としたい誘因があり、強硬姿勢への傾倒が想定される。対立中は関税による景気抑制圧力が加わり続け、仮に何らかの早期妥結に至る場合でも、交渉過程では経済、金融市場に大きな変動が及ぶ可能性が高い。

 筆者は7日の本稿にて「『5月売り』のアノマリーが示現するとしたら、(中略)、ボラティリティの変化に注意を払う必要がある」と記した*1が、その後の金融市場の動きは、この蓋然性が高まっていることを示唆する。米中対立の波及で注目されるのが米連邦準備理事会(FRB)の対応である。1日にパウエルFRB議長は「金融政策姿勢は現時点で適切であり、(政策金利を)いずれの方向にも動かす強い論拠はみられない」と述べ、当面の政策金利据え置きを示唆したが、数日後に対中制裁関税第3弾の未適用分が賦課された。FRBは「辛抱強く」様子を見る姿勢を強め、金融政策の柔軟性を確保するが、一方で政策の予見可能性は低下した。昨年12月には情報発信を誤り、市場の混乱を助長した前例がある。関税引き上げは悪性インフレを伴うため、上下双方への政策調整の選択肢が想定され、今後の政策対応は容易ではない。

*1  PRESTIA Insight 2019年5月7日「キャリートレードと『5月売り』」

投資調査部
マーケットエコノミスト
祖父江 康宏

注目のチャート

2019/5/13 10:00

米関税引き上げはまだ家計に転嫁されていないが

米関税引き上げはまだ家計に転嫁されていないが

 米国は5月10日に中国からの輸入品2000億ドル規模に対する関税率を10%から25%に引き上げた。昨年9月に10%を賦課後、今年1月から25%へ引き上げる予定だったが、3月に延期され、2月下旬に米トランプ大統領が米中通商協議に「大きな進展があった」として期限を定めず延期していた措置が復活した。関税引き上げ品目には、モデムなど通信機器、繊維製品、家電、自動車部品などが含まれる。米中双方から協議への楽観的な見通しが示されていたため、5月5日にトランプ大統領が10日の関税引き上げを表明した際には、世界的な株価下落を招いた。
 米国の輸入物価指数の動向をみると、昨年7月に前年比で4.8%上昇と直近のピークをつけた後、12月には下落に転じ、直近3月は横ばいである。関税より石油価格の影響が強いとみられ、石油を除く総合は3カ月連続で下落している。中国からの輸入に限れば、5月10日以前の状況(TVなど500億ドル規模に25%、2000億ドル規模に10%)では全体で前年比0.9%下落。関税引き上げの影響はシーツなどの繊維・衣料品に限られているようだ。こうしたなか、消費者物価指数は食品、家具・家事用品、娯楽用品などは小幅(前年比1-2%)に上昇するが、直近4月は全体で前年比2.1%上昇にとどまる。ここまでの関税引き上げ分は米中双方の企業努力等で吸収されてきたことが確認できるが、全ての中国製品に25%の関税賦課の方針も示されるなか、今後は米家計への転嫁は不可避で、消費者心理を一段と冷やす可能性があろう。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
白鳥 朋子

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