Today's Insight
2025/12/2 10:00作成
欧州:防衛能力強化に向けて柔軟化する財政運営
■ 欧州委員会はユーロ加盟国に財政の持続性、生産性向上、経済安全保障強化を求める
■ フランスは予算成立が見通せず、他国も低成長下での経常支出の継続削減は政治不安の火種に
欧州委員会は11月25日に2026年の予算承認プロセスの最初のステップである「ヨーロピアン・セメスター」秋季パッケージを公表した。秋季パッケージでは加盟国が提出した次年度予算案の評価と経済政策に関する指針が中心的な議題となる。
秋季経済予測に基づくと、ユーロ圏の財政赤字、債務残高(以下いずれも名目GDP比)ともに2024年(3.1%、88.1%)と比較して2025年(3.2%、88.8%)、2026年(3.3%、89.8%)はやや拡大するものの、中期財政計画を反映した2025、26年の財政姿勢は「概ね中立的(broadly neutral)」と評価された。2026年は公共投資(3.7%)が拡大し、前年からの増加分の約3分の1は防衛関連投資が占める。各加盟国の歳出に加えて復興・強靭化ファシリティ(RRF)を中心とする欧州連合(EU)基金からの拠出で賄われる。近年の外部環境変化を受けてコロナ禍で拡張した財政の健全化から成長・財政規律の両立へ方針転換が図られており、各加盟国の防衛関連以外の経常支出削減により財政赤字の急拡大は抑制されている。
主要国の予算案評価では、「超過財政赤字手続き(EDP)」対象国のうちフランス、イタリアは欧州委員会の勧告が順守されると見通された。「安定・成長協定(SGP)」の国家免責条項(NEC)が適用されるドイツは財政支出が欧州委員会の勧告を上回るものの、2028年まで名目GDP比1.5%以内の防衛支出増加を認めるNECの範囲内と評価された。経済政策に関する指針では、各加盟国に財政の持続性を維持しつつ、生産性向上、経済安全保障強化に向けた取り組みを求めた。財政政策は中立的な財政姿勢を維持し、中期財政計画やNECの範囲内であれば一時的な防衛費増加などの柔軟性を許容している。
加盟国は欧州委員会の予算案評価や経済政策の指針を踏まえて予算成立を目指す。フランスでは緊縮的な予算案の議会承認が見通せず、審議が停滞する場合、財政の信認や政治の安定が改めて問われそうだ。2026年8月にRRFは期限を迎え、EUからの資金拠出は以後段階的な縮小が見込まれる。中立的な財政姿勢の維持のため防衛費以外の経常支出削減の必要性は一段と高まろう。低成長継続が見通されるなか、給付削減など緊縮策への反発、政権支持率低下、大衆迎合勢力の台頭など、中期的に政治不安の火種は残りそうである。
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏



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