Today's Insight
2025/8/12 10:45作成
日銀の「主な意見」にみられた利上げに向けた意見
■ 7月日銀会合の「主な意見」では、利上げへのタイミングを逸するリスクを指摘する意見も
■ 次の利上げへは、9月日銀短観の設備投資計画などで関税の影響の見極めが重要に
8日公表の7月30、31日の日銀金融政策決定会合における主な意見(以下、「主な意見」)では、植田総裁の記者会見での慎重姿勢と比べ、利上げに積極的ととれる意見がみられた。7月会合では全会一致で政策金利が据え置かれ、総裁は米関税政策を巡る不確実性を強調して利上げへの慎重姿勢を示した。しかし7月会合の「主な意見」では、同様の意見が冒頭で示される一方、日本の政策金利が欧米と異なり中立金利水準を下回る状況などから、「過度に慎重になって、利上げのタイミングを逸する」ことへの懸念も示されていた。また高止まりが続く物価に関しては、「①日米交渉合意、②企業の前向きな賃金・価格設定行動の維持、③物価上振れを踏まえれば、見通し期間前半に物価目標実現できると判断できる可能性」は高まったとし、インフレ高止まりでインフレ期待がさらに上昇するリスクを指摘する声もみられた。
金融政策運営については、米関税政策の影響見極めに「少なくとも今後2-3か月は必要」であり、米経済が持ちこたえれば、「早ければ年内にも現状の様子見モードが解除できるかもしれない」と年内利上げの可能性にも言及された。当行は引き続き日銀が10-12月期に利上げに踏み切ると見込んでいるが、それには米関税引き上げの影響により米国経済がどの程度押し下げられるか、また日本経済にどの程度影響するかに大きく依存することになろう。日本経済への悪影響は、まず関税の影響を直接的に受ける企業部門から現れる可能性が高いことを踏まえると、9月1日公表の4-6月期法人企業統計の企業利益や10月1日公表の日銀9月短観調査における設備投資計画の結果を確認していくことが重要となる。
足元の日本経済を点検すると、物価高が続くなかでも個人消費は非常に緩やかながらも改善している。日銀が公表した実質消費活動指数(旅行収支調整済、前月比0.9%上昇)は、3カ月連続でのマイナスの後、6月は大きく上昇。サービス消費の緩やかな上昇基調が続くなか、6月は耐久財・非耐久財消費も回復し、2019年10月以来の高い水準をつけた。一方、6月毎月勤労統計では、足元の賃金(現金給与総額:前年比2.5%増)の伸びは昨年末の平均3%程度からはやや停滞する。しかし、春闘の最終集計ではベースアップが同3.7%と前年を上回ったうえ、厚生労働省の審議会は4日、2025年度の最低賃金の全国平均(時給)を過去最大となる6%引き上げると決定しており、こうした動きが賃金の持続的な上昇を形作り、消費を下支えすることが期待される。米関税政策による逆風のなかでも、家計・企業部門の緩やかな改善が保たれれば、日銀は中立金利に向けて慎重に利上げを進めていくことが可能になるだろう。
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加