Today's Insight

2025/9/16 11:00作成

中国:政府はデフレとの闘いに舵を切る

■ 中国の生産、消費、投資などの経済活動は8月に一段と落ち込む
■ 企業の過当競争抑制には一定の効果が表れ始めるが、新たな需要創出策の必要性も

 中国では昨日8月分の経済指標が数多く発表された。主要指標である鉱工業生産(前年比5.2%増)、小売売上高(同3.4%増)、固定資産投資(農村部除く、年初来同0.5%増)、サービス業生産指数(同5.6%上昇)はいずれも増勢を弱め、景気拡大ペースの鈍化が一段と明確となった。鉱工業生産、サービス業生産指数は中国政府の成長率目標である5%を上回る増加・上昇を維持しているものの、小売売上高、固定資産投資は5%を下回る増加にとどまる。不動産市場の調整も続いており、不動産開発投資(年初来同12.9%減)、不動産販売(床面積ベース、年初来同4.7%減)の減少ペースは加速した。主要70都市新築住宅価格(ロイター算出、前年比2.5%下落、前月比0.3%下落)は前月比で4カ月連続で下落し、価格調整が続いている。8日発表の貿易統計では輸出(前年比4.4%増)の増加ペースは3カ月ぶりに鈍化し、米国の対中関税引き上げの猶予期間が11月10日まで延長されたなかでも米国向け輸出(同33.1%減)の減少ペースは加速した。7月の駆け込みの反動が含まれるものの、内需低迷が続くなか外需復調も一服している。

 10日に発表された消費者物価指数(CPI、前年比0.4%低下、前月比変わらず)、生産者物価指数(PPI、前年比2.9%低下、前月比変わらず)は前月比での低下が止まった。前年比では、CPIは食品価格下落により低下に転じたものの、食品・エネルギーを除くコアCPI(前年比0.9%上昇、前月比変わらず)は4カ月連続で上昇ペースが加速し、デフレ圧力に緩和の兆しがみられる。中国政府は7月1日開催の中央財経委員会会議にて企業の無秩序な価格競争を法律により規制する方針を示し、9月16日に中国共産党機関誌に掲載される習国家主席の「重要文章」でも重要課題の筆頭に挙げられた。デフレ対策に一定の効果がみられる反面、PPIは、医薬品製造業、化学繊維製造業など輸出向けの汎用製品分野に加えて、自動車製造業(新エネルギー車など)、コンピュータ・通信機器・その他電子機器製造業(スマートフォン、集積回路など)などの先端製品分野でも低下し、企業の価格競争が広範にわたっていることもうかがえる。産業育成や市場拡大に向けて政府支援を強化してきたものの、供給能力に需要が追い付いていないことを示唆する。先端製品への買い替えなど中国政府の消費喚起策の効果が一巡するとともに、新たな需要創出策の必要性が高まっている。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏

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