Today's Insight
2026/3/5 13:00作成
欧州経済:イラン情勢緊迫化の経済への影響
■ エネルギー価格の急騰は、景気下振れ、インフレ上振れリスクとなる
■ コアへの二次的波及や期待インフレ上昇がみられない限り、ECBの利上げにはまだ距離があろう
米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃後にイラン海軍がホルムズ海峡を事実上封鎖し、エネルギー価格が急騰している。状況は流動的であり、市場のエネルギー価格がどこで落ち着くかは不透明だ。本稿では、イラン情勢の緊迫化によるユーロ圏経済・物価への影響、および欧州中銀(ECB)の対応について検討したい。
ユーロ圏諸国の多くは、天然ガスや原油などのエネルギーの輸入依存度が高く、エネルギー価格の急騰は交易条件を大きく悪化させる。エネルギー価格の上昇が長期化すれば、輸入コスト増は企業収益を圧迫し、消費者に価格転嫁されれば個人消費を抑制して、景気下振れリスクが高まろう。市場のエネルギー価格の上昇は、ユーロ圏の消費者物価指数(HICP)のエネルギー価格(ウエイトは10%程度)に直接的な影響を及ぼす。欧州の家計向けエネルギー価格は長期契約で決まる部分も多く、市場価格に数カ月遅行して変動する。さらに市況高騰が長期化すれば非線形に価格引き上げが進む傾向もある。2月の総合HICPは前年比1.9%上昇と2%インフレ目標をやや下回る推移が続くが、イラン情勢の緊迫が長期化すれば再び2%を上回ることになろう。こうした見方を背景に、金融市場の政策金利織り込みは、ECBの年末までの利下げから、足元25bpの利上げが2割程度織り込まれる方向に転換した。
ただし、消費低迷による景気下振れリスクが高まるなか、エネルギー価格による総合HICPの上昇だけでECBが利上げに動く可能性は低いだろう。焦点となるのは、コアHICP(エネルギー・食品・酒類・タバコを除く)への二次的波及が強まり、それに伴い長期的なインフレ期待が変化するかどうかだ。足元のコアは2%をやや上回る伸びが続くが、基調的には財・サービスともに減速傾向が続く。通常、エネルギー価格の上昇に伴うコアへの影響は半年から1年と比較的長いラグが存在しており、もしエネルギー価格の高騰が長期化せず、長期的なインフレ期待がアンカーされていれば、コアへの影響は時間の経過とともに小幅にとどまるだろう。
ECBには、2022年のコロナ禍後のインフレ急騰を一時的とみなし、利上げ対応が遅れた苦い経験がある。しかし、パンデミック対応で金融・財政政策ともに大きく緩和的な状態にあった当時とは異なり、現在のユーロ圏の政策金利は中立金利水準にあり、予防的な利上げにはまだ距離があるだろう。経済・物価、インフレ期待などのデータを注視しつつ、ECBの様子見姿勢はまだ当面続くとみられる。
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加



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