Today's Insight
2025/8/6 11:40作成
ドル円:「昨年の再来」は起こるのか
■ 8月1日のドル円相場の値動きから、昨年と同様の大幅な下落につながるとの警戒が浮上
■ 日銀と投機筋の動向など昨年との違いを踏まえると、「昨年の再来」の可能性は低いとみる
8月1日に公表された7月の米雇用統計の結果を受けて、金融市場には警戒が広がった。具体的には8月5日発行のPRESTIA Insight*1に記載の通り、非農業部門雇用者数の5、6月分が計25.8万人の大幅下方修正となるなど、米国の景気減速度合いが想定以上との思惑が浮上した。ドル安進行で、8月1日のドル円は150円台後半から147円台前半まで反落した。
同時に、為替市場の一部では約1年前の値動きの再来に対する警戒も浮上したとみられる。昨年は、8月2日に公表された米雇用統計で失業率が4.3%へ悪化してサーム・ルール景気後退指標が閾値である0.50%を上回り、米景気後退懸念が高まった。ドル円は8月2日から週末を挟んだ5日まで、149円台後半から141円台後半まで下げ幅を拡大した。
現時点では、昨年のような値動きが起こる可能性は低いと考えている。約1年前と現在の状況の違いでは、米国でのサーム・ルール抵触の有無に加えて、(1)日銀の追加利上げへの姿勢、(2)投機筋のポジション動向、を挙げたい。(1)昨年のドル円急落は、7月30、31日に開催された日銀金融政策決定会合(以下、日銀会合)も影響した。日銀は0.25%への利上げを実施し、植田日銀総裁の記者会見後に2024年末までの追加利上げ観測が浮上した。対して、今年7月の日銀会合では政策金利を0.50%で据え置いたうえ、植田日銀総裁の発言は追加利上げに慎重と解釈され、円安が進行した。(2)米商品先物取引委員会(CFTC)のデータで一部投機筋の売買を反映するとみられる非商業部門における円のネットポジションでは、昨年8月2日公表時点で約7.3万枚の「円売り超」だった。同7月3日高値(161円99銭)を示現した円キャリートレードの巻き戻しが続き、ドル円急落をもたらす状況にあった。対して、今年8月1日公表時点では約8.9万枚の「円買い超」であり、投機筋のポジション解消が起こるとすれば、むしろドル円上昇を警戒する状況にある。
ただし、上記2点は日本の材料であり、米国発の相場波乱の可能性は残る。米景気減速を巡っては、ひとまず9月米連邦公開市場委員会(FOMC)まで米経済指標を精査する段階となろう。また、昨年はなかった材料として、新たな米連邦準備理事会(FRB)理事の人選次第でドル安が再燃する可能性に注意しておきたい。
*1: 詳細はPRESTIA Insight 2025.08.05 「米国経済:労働市場で起きる変化」を参照
投資調査部
シニアマーケットアナリスト
合澤 史登