Today's Insight

2025/4/25 10:40作成

米国債:今夏以降、利回りは低下基調へ

■ 4月に米国債市場の変動性が高まり、タームプレミアムの拡大とともに米国債利回りが上昇した
■ 経済のハードランディングの可能性が高まり、景気減速が明確となる今夏以降、利回りは低下へ

 米国債市場では不安定な値動きが続いており、「相互関税」が発表された4月2日以降、米10年国債利回りの20日ヒストリカル・ボラティリティ(HV)は大幅に上昇している。米国の朝令暮改の政策方針により政策予見性が著しく低下していることに加えて、海外投資家の米国債保有や米連邦準備理事会(FRB)の独立性に対する懸念が浮上し、タームプレミアム拡大を伴って長期・超長期国債を中心に米国債利回りは水準を切り上げている。筆者は先月、関税引き上げや減税を推進する過程で、米長期金利の安定が米政権の政策運営への信認を測るバロメーターであるという見解を示したが*1、米国債市場の政策運営に対する信認は早速揺らいでいるようである。

 米10年国債利回りは、米中対立激化による株価急落を受けて4月第2週に一時的に4%を下回ったが3%台定着には至らず、「経済・物価への影響がより明確になるまで米10年国債利回りの方向性は表れず4%台でのレンジ推移が継続」するとした3月時点の当行見通しに概ね沿って推移している*2。「相互関税」発表以降の米国の政策方針や経済への影響を踏まえると、米10年国債利回りの方向性が表れるのは今夏以降で、FRBの利下げ開始とともに低下傾向が明確になると見通している。国別関税発動が90日間猶予されたため6月分の経済指標までは経済・物価への関税の影響は判然とせず、駆け込み輸出などで経済の基調も見極め難い状況が続くと考えられる。同時に関税撤回への期待は薄れ、通商交渉を経て関税の大幅引き上げが回避される場合でも非関税障壁の是正や企業の設備投資・採用計画の延期、見直しなどにより経済活動は中期的に制約されることが見込まれる。米国経済は3月まで想定されていた緩やかな景気減速(ソフトランディング)よりも景気急減速(ハードランディング)に向かう可能性が高まっている。FRBは中長期的なインフレ期待の安定を重視し、早期利下げには傾いていないものの、ウォラーFRB理事などから関税によるインフレが一時的であることを条件に利下げが可能であるとの主張がみられ始めた。景気減速が明確となる今夏以降は金融政策対応の必要性が高まり、利下げ開始後は中立金利水準到達まで3月の「経済見通し概要(SEP)」の想定より速いペースで利下げが進められよう。米10年国債利回りは政策金利に連動して低下が見込まれる。ただし、タームプレミアム上乗せにより相対的に小幅な低下にとどまり、利下げ進展とともにイールドカーブは傾斜化(スティープニング)することが予想される。

*1 詳細はPRESTIA Insight 2025.03.26「米国:政策運営のバロメーターとなる長期金利」
*2 詳細はPRESTIA Global Research Monthly 2025年4月号


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏

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