Today's Insight

2025/8/27 11:50作成

米ドル:直近のこう着感は一時的、先行きの下落を想定

■ 7月以降米ドル安基調は一服、直近のこう着感は3つの米ドル安要因の落ち着きが背景とみる
■ 金融市場では米ドル高基調復活の思惑もあるが、筆者は先行きの米ドル安要因の再燃を想定

 米ドル相場のこう着感が強まっている。ドルインデックスは、今年1月13日に年初来高値(109.756)を付けて以降、7月1日安値(96.377)まで下落基調をたどった。この間、主な米ドル安要因では(1)秋以降の米利下げ観測、(2)米連邦準備理事会(FRB)の独立性を巡る不安感、(3)米政権の政策不確実性、の3点があった。7月はこれらの要因が一服してドル高の流れが優勢となったが、8月1日に公表された7月の米雇用統計を受け100.257で上値が抑えられ、本稿執筆時点のドルインデックスは98台前半を中心に推移している。

 7月以降の米ドル安一服は上記(1)-(3)に関連して、米物価指標の結果から関税とは直接関係が薄いサービス価格の伸び加速への懸念が高まった点、パウエルFRB議長の解任騒動が落ち着いた点、日本や欧州連合(EU)に対する関税率が概ね定まった点、などが背景と考える。そうしたなか、米商品先物取引委員会(CFTC)のデータで一部投機筋の売買を反映するとみられる非商業部門において、主要8通貨に対するドルのネットポジションでは、今年6月には18万枚台までドル売りが膨らんでいたものの、8月12日終了時点で一時約1100枚まで縮小するタイミングもあった。加えて、FRBは9月利下げに踏み切る公算が大きい一方で、労働市場の減速が明確にならない限り、その後の利下げ判断は明示しないとみられる。金融市場では、米ドル高基調復活への思惑もくすぶる状況にある。

 しかしながら、筆者は現時点で米ドル高復活の可能性は低いとみており、むしろ今年冬にかけて第1パラグラフで記した(1)-(3)の米ドル安要因は再び意識されやすくなると想定する。(1)7月末時点で約18%まで上昇した米輸入品の平均関税率(米イエール大学試算)が米景気へ与える打撃は今後蓄積していくとみられる。そのため、FRBの利下げ姿勢自体は変わらないとみる。(2)米政権によるクックFRB理事の解任騒動に加えて、年内に次期FRB議長が指名されて議会で承認されれば、FRBの独立性を巡る懸念は再燃する見込み。(3)減税などの穴埋めを関税収入に頼る方針を米政権が打ち出す以上、交渉が続く中国、カナダ、インドなどへの圧力が弱まる可能性は低く、関税政策を巡る不透明感はくすぶり続ける見通し。以上から、ドル円も円安進行で150円台に乗せる場面があったとしても、8月1日高値(150円91銭)を明確に上抜けるのは難しいと想定しておきたい。


投資調査部
シニアマーケットアナリスト
合澤 史登

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