Today's Insight

2025/7/17 11:15作成

米国経済:関税の影響を点検

■ 米関税政策の国内経済・物価・雇用への悪影響は、まだ一部に限られる
■ 企業利益率の圧迫や強硬な移民政策の悪影響の顕在化が夏場以降に加速する見込み

 年後半の米国経済は成長率の鈍化が見込まれる。米政権の関税引き上げによる前倒し需要の剥落、関税によるインフレの再加速、それに伴う労働市場の悪化の動きが顕在化するとみられるからだ。しかし、今週公表の6月の鉱工業生産や消費者物価指数(CPI)では、この動きはまだ緩やかだった。6月の製造業生産(前月比0.1%増)は予想を上回った。製造業生産は、昨年末までの下落トレンドが年初から反転しており、足元も高水準を維持している。前倒し需要による生産増はまだ続いているようだ。また、6月コアCPI(食品・エネルギー除く:前年比2.9%上昇、前月比0.2%上昇)の伸びはやや加速したものの、予想を下回った。コアCPIの予想対比の軟調さは、自動車や旅行関連サービスの価格の下落が主因だ。しかし、企業が積み増していた大量の在庫の取り崩しが進めば、利益率の圧迫を回避するため、関税による価格上昇圧力は増してくるだろう。こうしたなか消費者用電子機器、家具、娯楽商品など輸入依存度が高い財価格は上昇傾向が続いており、関税の消費者への転嫁の進展を示す。

 労働市場軟化の速度も緩やかだ。失業保険継続受給者数にみられた上昇トレンドは足元一服しており、企業はまだレイオフを大きく増やしていないが、積極的な採用は控えている状況とみられる。ただし、米政権の連邦政府大量解雇や移民政策が先行きの労働市場に大きな影を落とす。米最高裁は8日、連邦政府職員の大幅削減の差し止めを解除した。これにより政府部門の大量解雇実施への道が開かれ、8月の雇用統計にはその影響が表れる可能性がある。また、バイデン前政権下に実施された大規模な移民プログラムは段階的に廃止されている。キューバ、ハイチ、ニカラグア、ベネズエラ移民への人道的一時入国許可(CHBNV)と一時保護資格(TPS)の撤回を受けて、90万人近くが在留資格を失っており、今後も増える可能性が高い。それに伴う労働者の減少は、建設、接客サービス、運輸、製造業などの労働供給への直接的な打撃となりえるだけでなく、消費需要や企業投資にも悪影響を及ぼす可能性がある。ダラス連銀は11日、移民制限が経済成長率を0.75-1%ポイント押し下げるとの試算を公表しており、年後半に雇用や景気が急速に悪化する可能性には警戒が必要だ。

 トランプ大統領によるパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長解任の話題で市場は乱高下した。しかし大統領の圧力がFRBの意思決定に影響を及ぼす可能性は低く、利下げ判断は今後の経済指標をもとに下されよう。7月米連邦公開市場委員会(FOMC)での判断は時期尚早とみられるが、9月FOMCまでには経済指標が大きく変調する可能性は高く、注目が高まろう。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加

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