Today's Insight
2025/6/6 12:00作成
6月ECBレビュー
■ ECBは予想通り0.25%の利下げを決定。ラガルド総裁は、利下げサイクルの一時停止を示唆
■ スタッフによる経済・物価見通しの下方修正は小幅だが、関税による景気リスクは下方に偏る
欧州中央銀行(ECB)は5日の理事会において、大方の予想通り、主要政策金利の0.25%の引き下げを決定した。利下げは7会合連続となる。これにより中銀預金金利は2.00%となり、ECBスタッフによる中立金利水準のレンジ1.75‐2.25%の中間点まで引き下げられた。政策金利の引き下げ幅は、2024年6月の利下げ開始から累積で2.00%に上ることになる。
ラガルドECB総裁の会見では、利下げの一時停止に向けた地ならしがなされた。ECBは、特定の金利の道筋を事前にコミットせず、データ次第で会合毎に判断するスタンスを維持したが、総裁は記者会見において「新型コロナパンデミック、ウクライナでの戦争、エネルギー危機などの複合ショックに対応した金融政策サイクルは終わりに近づいている」と発言。現在の金利水準は、今後の不確実性への対処に「適切な位置」にいるとの認識を示した。5月の消費者物価指数(HICP)が前年比1.9%上昇と物価目標に戻るなか、上記の発言は利下げが今回会合にて一旦打ち止められ、今後は関税の影響を見極めるフェーズに入る可能性を示唆する。7月23、24日に予定される次回理事会までにも、北大西洋条約機構首脳会議(6月24-25日)、関税一時停止期間の終了(7月9日)、6月のHICP公表(7月17日)など数多くのイベントが予定される。ECBはこうした情報を十分に分析したうえで、政策判断を行うことになろう。
今回更新されたスタッフマクロ経済見通しでは、成長率・物価見通しが下方修正されたものの、3月時点からの修正幅は小幅にとどまった。予測は、米国の欧州連合(EU)へ10%の関税賦課を前提とするが、現時点では影響はそれほど大きくはないとの判断のようだ。実質GDP成長率の予測は、2025年、2026年、2027年がそれぞれ前年比0.9%、1.1%、1.3%となり、来年以降1は1%台の成長に戻る見通しだ。前回からの修正幅は、2025年は足元の堅調さと先行きの弱さが相殺されて変更なし、2026年は「貿易摩擦の不確実性が企業投資と輸出の重荷となる」一方、「防衛とインフラへの投資の増加が支え」となり、0.1%ポイントの下方修正にとどまる。インフレ見通しは、2025年、2026年、2027年がそれぞれ同2.0%、1.6%、2.0%だった。主にエネルギー価格やユーロ高を反映し、2025年と2026年が共に0.3%ポイント下方修正されたが、予測期間終期には2%のインフレ目標に落ち着く見通しとなっている。ただし、ラガルド総裁は「景気へのリスクは依然として下向き」であり、「インフレ見通しは通常よりも不透明」であることを認めている。米関税政策の帰趨次第で、より大きく継続的な景気への悪影響が見込まれる状況になれば、ECBは追加的な緩和措置を講じることになるだろう。
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加