Today's Insight
2025/10/8 11:00作成
米国:民間調査が示す労働市場の現状
■ 米国では雇用統計などの公表が延期されているが、民間調査は労働市場の調整継続を示唆
■ 年末商戦での労働需要の回復もうかがえず、米利下げペース減速の検討は時期尚早か
米国では10月1日から政府機関の必須業務以外の業務が停止されている。この影響で米労働省や米商務省の経済統計の公表は延期され、9月の雇用統計、消費者物価指数(CPI)、小売売上高などの主要経済指標の発表時期は7日時点で未定となっている。9月に再開した利下げ継続の是非が焦点となる10月28、29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、限られた最新データに基づいて政策判断が下される可能性が高まっている。
金融政策判断での目下最大の焦点である労働市場の動向については、政府統計の公表が延期されるなかでも9月分の民間調査の結果から現状の輪郭は把握できる。ADP雇用統計では民間部門雇用者数(前月比3.2万人減)が下方修正された8月に続いて2カ月連続の減少となり、ISM景況感指数の内訳として示される雇用指数は製造業(45.3)、非製造業(47.2)ともに縮小を示す50未満で推移している。これらのデータは雇用統計と集計対象が一致する訳ではないものの、8月まで観測されている労働市場の調整が続いていることを示している。その他では、インディード求人指数(9月26日時点までの月間平均値、前月比1.8%低下)が8月の上昇から低下に転じ、シカゴ連銀はADP雇用統計とインディード求人指数などから9月の失業率を前月とほぼ同水準の4.34%と推計している。9月は労働需要、労働供給ともに減少し、需給バランスには大きな変化がないことが示唆される。
CPIなどの物価統計の公表が延期される可能性が高まっていることを踏まえると、労働市場の調整が継続するなかで10月28、29日のFOMCで利下げを見送る根拠は乏しくなっていると考えられる。先行きについても、チャレンジャー・グレイ・クリスマス社の集計では9月の大企業の人員削減計画数(5万4064人、前年比25.8%減)、採用計画数(11万7313人、同71.0%減)はいずれも前年の水準を大幅に下回っている。大企業の採用計画数は、年末商戦に向けて季節採用が急増する9月の集計値としては2011年以来最低水準となった。例年多くの季節採用を行う小売業や運輸・倉庫業の複数の大企業でまだ計画が公表されていないため単純比較はできないものの、年末商戦で労働需要が回復することは期待しづらい状況である。すでに求人倍率(失業者1人当たりの求人件数、8月:0.98倍)が労働需給均衡を示す1.00倍を下回り、米連邦準備理事会(FRB)がこれ以上の雇用の減速を許容しない方針を示すなか、利下げペースの減速が現実味を帯びるのは時期尚早であろう。
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏