Today's Insight
2025/10/1 11:40作成
日銀「主な意見」にみられたリスクのシフト
■ 9月会合の「主な意見」では、成長下振れからインフレ上振れリスク重視へのシフトが徐々に進行
■ 日銀9月短観では企業の景況感の底堅さが示され、日銀は利上げのタイミングをうかがう
9月18、19日の日銀金融政策決定会合における主な意見(以下、「主な意見」)が9月30日に公表された。9月会合では政策金利は据え置かれたが、高田委員と田村委員の2名が利上げを主張した。「主な意見」では、経済情勢は「まずまず堅調」との見方が示された一方、物価に関して、反対票を投じた2名からとみられる上振れリスクを指摘する意見に加え、「企業が積極的な値上げに踏み切っている」などの多くの議論が行われた。またリスク評価では、「米国経済の落ち込みの程度」を見極めたいと、米関税を巡る不確実性による成長下振れリスクを警戒する意見は依然根強い。一方、「国内の物価との関係では待つことのコストも徐々に大きくなっていく」など、利上げが遅れることへの警戒感が多く示され、政策委員の認識が国内インフレの上振れリスクを重視する方向に徐々にシフトしている様子がうかがえる。
金融政策運営の先行きを示唆する意見としては、見通しの軌道を外れなければ「ある程度定期的な間隔で政策金利の水準を調整していくべき」と利上げを後押しする意見がみられた。また、短観などから「企業の積極的な経営姿勢が維持されていること」を確認したいとされ、米関税政策による影響の不確実性が残るなか、日銀は次の政策決定において、差し迫った景気悪化リスクがないか、関税に直面する企業行動からの判断を重視していることがうかがえる。
こうしたなか、本日公表の日銀短観9月調査では企業の景況感の底堅さが示され、総じて追加利上げをサポートする内容となったといえよう。業況判断DI(最近)は大企業・製造業(14、前回比1ポイント上昇)、大企業・非製造業(34、同変わらず)ともに高水準を維持。7月下旬に日米関税交渉が合意に至ったことや、想定為替レートを上回る円安が企業収益を支えたことが後押しした。先行きDIは、世界経済の悪化懸念や人件費負担増などを反映して、大企業・製造業(12、最近比2ポイント低下)、大企業・非製造業(28、同6ポイント低下)ともに低下したものの、過度な悲観には陥っていない。また、2025年度の全規模・全産業の経常利益計画(前年比4.8%減)や設備投資計画(含む土地投資額、同8.4%増)は上方修正され、人手不足に伴う省力化投資需要などが下支えし、設備投資は増勢を維持することが見込まれる。
当行は引き続き10-12月期の利上げを見込む。今週は2日には内田日銀副総裁、3日に植田日銀総裁の講演が予定される。4日投開票の自民党総裁選を前に10月利上げへの明確な言及などは出にくい可能性があるが、足元のリスク評価に変化が表れるか注目されよう。
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加