Today's Insight

2026/7/1 10:10作成

グローバル:エネルギー価格高騰を補完するAIブーム

■ エネルギー価格高騰で懸念されたスタグフレーションの兆候はみられず景気は復調しつつある
■ 中東産エネルギーへの依存度が高い東アジアではAI関連需要が景気下押しの緩衝材となった

 3月以降の原油、天然ガスなどエネルギー価格急騰およびホルムズ海峡封鎖の長期化により、世界経済は経済活動停滞(スタグネーション)と物価上昇(インフレーション)が同時に生じるスタグフレーションに向かうことが懸念された。インフレーションに関しては企業間取引でその兆候が表れており、今後消費者物価にも波及していくことが見込まれる。対照的に、スタグネーションに関しては中国やドイツなど一部の国・地域では国内活動が停滞しているものの、多くの国・地域では大きな落ち込みはみられず、景気はむしろ3月時点から復調しつつある。

 前年の米国による「相互関税」発動後と同様、価格転嫁や国際供給網の混乱に備えて備蓄需要が強まったことが世界的な経済活動の底堅さの一因に挙げられるものの、主因は半導体など人工知能(AI)関連の設備投資需要の急拡大であると考えられ、東アジア各国の輸出や受注などに顕著に表れている。「ハイパースケーラー」と呼ばれる大手クラウドサービス事業者によるデータセンター構築やストレージ容量増強などの需要を反映して米国の資本財受注は昨年後半から明確に増勢を強め、価格高騰の影響も含まれるが航空機除く非国防資本財受注(5月:840.27億ドル)は過去最高額を更新した。同時に、データセンター構築などで必要とされる高速・大容量メモリ需要により韓国の半導体輸出(5月:前年比167.7%増)、台湾の情報通信機器の輸出受注(5月:同74.4%増)、中国の集積回路(IC)輸出(5月:同110.9%増)が前年から急増しており、いずれも地域別の輸出では米国向けや中国・香港向けの増加が目立っている。日本でも半導体製造装置、電子部品などの増産に向けた精密加工用機械の需要拡大により工作機械受注(5月:同137.4%増)や機械受注の外需(4月:同64.1%増)が急増している。備蓄需要に関しては「需要の先食い」であるため、原油価格高騰の一服とともに反動が想定される一方、AI関連需要は中東情勢や国際商品市場の動向との直接的な関係性は低く、関連企業の売上高見通しに基づくと当面は需要の持続が見込まれる。

 AI関連需要は、中東産エネルギーへの依存度が高い東アジア諸国にとって3月以降の経済への調整圧力の緩衝材となり、半導体関連株の大幅上昇による資産効果や関連産業の所得増加は家計消費を促進することが期待される。ただしAI関連産業に偏った成長の恩恵は多額の金融資産を有する中高所得層や半導体関連産業の就業者にとどまり、物価高騰により実質所得が目減りする家計部門の多くとの格差を広げる新たな要因にもなるだろう。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏

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