Today's Insight

2026/8/12 11:00作成

米国:雇用なき成長への金融政策対応

■ 最新の労働統計では一時的影響による増減がみられるものの、労働需給は概ね均衡している
■ AI関連投資ブームによる労働需要が観測されているが、趨勢的には労働需要は減少傾向にある

 米国では先週、最新の主要労働統計が発表された。7月の雇用統計では非農業部門雇用者数(前月比2.3万人減)が5カ月ぶりに減少し、基調を示す3カ月平均値(同2.0万人増)や平均時給(同0.1%増)の増勢は鈍化した。ただし、3カ月平均値が労働需給の安定に必要なブレークイーブン雇用成長を上回り*1、また労働参加率(61.4%)が低下したため失業率(4.1%)は2カ月連続で低下した。週平均労働時間(34.3時間)は安定し、労働時間による労働調整も観測されていない。6月の求人労働異動調査(JOLTS)では労働需要を示す求人件数(735.9万件)が700万件を下回った昨年後半から増加傾向にあり、失業者1人当たりの求人件数(1.04件/人)は経済全体での労働需給均衡を示す1.00件/人を2カ月連続で上回った。小売業、宿泊・飲食業を中心に6、7月に開催されたワールドカップ北中米大会に関連する一時的な求人が含まれていると推測され、7月の雇用統計でこれら業種の雇用者数は減少した。

 JOLTSでは、サービス業に比べて少数ながら建設業、耐久財製造業でも求人件数が増加しており、人工知能(AI)関連投資ブームが労働需要増加に寄与していると考えられる。AI普及に伴う業務代替や雇用喪失は労働市場の論点となっているが、現時点で労働市場全体に著しい影響が生じていることは読み取れない。ただしほぼすべての推計でブレークイーブン雇用成長は「ゼロ」に向かって急減速しており、労働需給の均衡点が下がり拡大均衡が止まりつつあることを示唆している。求人件数、採用件数は2022年ごろから2025年ごろまで趨勢的に減少し、現在もピーク時を大幅に下回る水準にとどまっている。企業が採用を抑制していることがうかがえ、「雇用なき成長(雇用創出を伴わない景気拡大)」が続いている。特定の要因で説明できる現象ではないが、対話型生成AIモデルが一般公開された2022年11月以降のAIの急速な普及も無関係ではないだろう。ウォーシュ米連邦準備理事会(FRB)議長は就任前に、AIによる生産性向上がインフレ抑制、AIインフラ投資が雇用創出に寄与すると主張している。米連邦公開市場委員会(FOMC)は「変革期の生産性と雇用」に関するタスクフォースを立ち上げ、AIを含む技術革新について生産性、雇用の両面から影響を検討する。この結論は政策金利の最終到達点(ターミナルレート)や長期金利の均衡水準の変動要因となり、債券市場でも米長期・超長期国債利回りの水準訂正が促されることになろう。

*1 最近の調査では、米連邦準備理事会(FRB)は前月比変わらず程度(2026年4月)、米イェール大学予算研究所は前月比2.0万人増未満(2026年7月)と推計している。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏

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