Today's Insight

2026/6/5 10:30作成

米国:タームプレミアムとFRB「第三の責務」

■ タームプレミアムは2014年以来の高位にあり、経済や政策の不確実性が意識されている
■ タームプレミアムの急激な変動はFRBの第三の責務である「適度な長期金利」の維持の障害に

 世界的に長期金利の上昇基調が強まり、米10年国債利回りは5月19日に2025年1月以来となる4.68%台まで上昇した。原油価格高騰の一服に伴い利回り上昇には歯止めがかかりつつあるが、現在(6月4日、4.47%台後半)もなお高水準で推移している。ホルムズ海峡封鎖やそれに伴う原油価格の高止まり観測が主因であり、金融市場で織り込まれる長期期待インフレ率の代表的な指標である米10年物価連動国債のブレークイーブンインフレ率(BEI)は5月に約1年ぶりの水準となる2.61%台まで上昇した。また、債券市場で取引されるターム物国債利回りの水準と同期間の政策金利予想(加重平均値)の差分として観測される期間10年のタームプレミアム(6月3日、約0.67%)も昨年4月の「相互関税」発動以降は2014年以来の高水準圏に位置している。タームプレミアムは将来の経済(経済成長率、インフレ率)や財政・金融政策(国債発行額、政策金利)などの様々な見通しの不確実性に対する対価(すなわち上乗せ金利)と考えられ、経済や政策が見通し難くなっていることが反映されている。

 米連邦準備理事会(FRB)は「二つの責務」と呼ばれる「雇用の最大化」と「物価の安定」を目標として金融政策を調整すると説明されることが多いものの、米連邦準備法にはこれらに加えて「適度な長期金利(moderate long-term interest rates)」の維持が第三の責務に掲げられている。したがって米10年国債利回りなど市場金利の変動性が高まる場合は金融政策での対応要請が強まることが想定され、タームプレミアムはその尺度の一つであると考えられる。中央銀行は政策金利調整に加えて、ガイダンスやコミュニケーションによる将来の政策金利経路の期待形成を通じてイールドカーブを間接的にコントロールしており、タームプレミアムの急激な拡大や縮小は市場金利に対する中央銀行の影響力低下を意味する。

 期間10年のタームプレミアムは2023年から2025年半ばに生じた基調的な拡大に歯止めがかかり、現在の米10年国債利回りは政策金利経路対比では高水準ながら「適度な長期金利」が危ぶまれる状況ではない。ただし、長期期待インフレ率の上昇に伴う将来の政策金利経路の上方シフトは米10年国債利回りの上昇圧力となり、物価や金融政策の見通しに対する不確実性はタームプレミアムの拡大要因となる。平時は「二つの責務」の遂行が実体経済の安定を通じて「第三の責務」実現の十分条件となるが、タームプレミアム拡大により金融政策の伝播効果が低下すると、非伝統的な金融政策や財政政策との協調の必要性を高めることになる。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏

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