Today's Insight

2019/7/17 9:30作成

米国とイランの対立は深まるが…

■ 米国とイランの対立で市場が注目するのは、「偶発的な戦闘が大規模な戦争に発展する」リスク
■ 双方とも本格的な戦争を起こす意思はなく、市場は米中対立などへの注目を優先するだろう

 現在市場が注目する地政学リスクの一つに中東情勢がある。中東情勢の詳細を掴むには複数の対立軸を見る必要があり、日本人には馴染みが薄い。主な対立軸は、イスラム教の教義を背景とした対立(シーア派とスンニ派)や原油価格を巡る対立(中東諸国の政策等)などがある。本稿では、注目を集める米国とイランの対立を巡る情勢に絞って状況を整理する。

 対立の中心は2015年7月にイランと欧米諸国が結んだ核合意。これは、イランの核兵器開発を防ぐため、国連の常任理事国である「米英仏中露」と、原子力でイランと従来から結びつきが強い「独」の6カ国が、イランに対して経済制裁を含む罰則規定を設けた合意事項である。ただ、米国はトランプ大統領の選挙公約に則り、2018年5月にこの核合意から脱退し、同年11月より独自にイランに対する経済制裁を強めた。その結果、イラン経済は悪化の一途を辿っており、こうした流れで米国とイランの対立激化に至ったのが現在の状況である。

 金融市場が警戒を強めるのは、「米イラン間の偶発的な戦闘が、両国間の本格的な戦争に発展する事態」とみられる。もし米国とイランの間で本格的な戦争が起こった場合、中東全域を巻き込む戦争になる恐れもあるためだ。よって、当面投資家として注目すべきは「偶発的な戦闘が起きるか」ということになろう。ホルムズ海峡を巡る動向が話題となるのも、偶発的な戦闘が起こる危険性を高める事象であることが大きい。こうした見方の背景に、米国とイランの首脳部同士のホットラインが存在しないことがある。冷戦期の米国とソ連(現ロシア)の間でも、第二次キューバ危機以降は首脳同士のホットラインがワシントンD.Cとモスクワの間で敷かれていた。これは、当時米ソ間で偶発的な戦闘が起こった場合、首脳同士の直接対話で本格的な戦争へ発展する事態を防ぐための危機管理の一環であり、実際それは機能していた。

 米国とイランの首脳部や軍部が再三表明している通り、今のところ双方とも本格的な戦争を起こす意思はない。また、トランプ大統領は「偶発的な戦闘が起きても短時間で収束するだろう」と発言するなど、金融市場の懸念を抑える意図を見せている。一方で、イランが米国と交渉を行う前提に経済制裁解除を掲げることから、早期の対立解消の可能性も低そうだ。「両国の戦争は回避されるが、対立は継続」となれば、中東情勢は「テールリスク」との解釈が広がり、市場では米国の利下げを巡る動向や米中対立への注目度が高い状況が続くだろう。


投資調査部
マーケットアナリスト
合澤 史登

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