Today's Insight

2026/6/12 10:30作成

米国:コスト転嫁は生産・卸売段階で広がる

■ 5月の消費者物価指数はエネルギーを中心に大幅に上昇したが、波及は周辺分野にとどまる
■ 仕入れコスト、労働コストなどの増加で企業間取引ではインフレは徐々に波及している

 米国で昨日までに発表された5月の物価指標は、消費者物価指数(総合:前年比4.2%上昇、前月比0.5%上昇)、生産者物価指数(前年比6.5%上昇、前月比1.1%上昇)ともに米連邦準備理事会(FRB)のインフレ目標である年率2%を大幅に上回るペースで上昇した。いずれもエネルギー価格の上昇が大きく寄与した。消費者物価指数では、燃料費高騰の影響で航空運賃などの一部の費目は大幅上昇が続いているものの、インフレの波及はエネルギーや周辺分野など部分的にとどまる。物価基調として注目される食品・エネルギーを除くコア指数(前年比2.9%上昇、前月比0.2%上昇)は前月比では4月から上昇ペースが鈍化し、5月時点で幅広い費目でのインフレ加速は観測されていない。

 もっとも5月の生産者物価指数では、最終需要ベースでエネルギーや輸送・倉庫サービスの上昇が目立ち、家計向け消費財も3月以降大幅上昇が続いている。企業間取引での原材料費、輸送費、包装資材費の高騰が最終製品の価格へ転嫁されている様子がうかがえ、小売レベルの消費者物価にも徐々に波及していくと考えられる。また、ISM景況感指数の仕入価格指数(製造業:82.1、非製造業:71.3)は非常に高い水準にあり、幅広い業種で企業の仕入れコストが上昇していることが示されている。雇用統計をみても、鉱業、建設、運輸、レジャー・接客などの労働集約業種に加えて、人工知能(AI)による業務代替で雇用者数が伸び悩む情報、金融、専門・ビジネスサービスなどの知識集約業種でも平均時給が大幅に上昇している。労働コスト上昇も幅広い業種で観測され、原材料コストの転嫁以外にも基調的なインフレ加速の兆候が表れつつある。

 FRBを含む世界の中央銀行はインフレの「二次的波及効果(Second-round effects)」を注視している。供給制約に対する金融政策の限界を認識し、一時的もしくは特定品目の物価上昇については、基調的な物価に大きな変化がみられない限り政策対応の必要性を示していないが、物価上昇が広範に拡大し期待インフレ率に上昇の兆候がみられる場合は対応する方針を掲げている。供給制約が拡大・長期化するほど基調的な物価に影響が及びやすくなり、日本やユーロ圏では利上げでの対応に傾きつつある。米国は中立金利を上回る水準に政策金利を誘導しているため、日本、ユーロ圏に比べて「二次的波及効果」を見極める時間的余裕は相対的に大きく、当面は金融政策を据え置くことが見込まれる。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏

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