Today's Insight

2024/9/9 11:30作成

米国:労働市場減速や景気後退懸念を残した雇用統計

■ 8月の米雇用統計では主要指標は7月から改善したが、基調的な雇用の増勢は鈍化している
■ 労働市場の調整に歯止めがかかり始めるまでは大幅利下げの可能性は残されよう

 6日に発表された8月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数(前月比14.2万人増)の増加ペースが加速し、失業率(4.2%)の低下、週平均労働時間(34.3時間)の増加、平均時給(前月比0.4%増)の大幅増加など、その他の主要指標も改善した。労働市場は急激な悪化を示した7月からやや拡大の勢いを取り戻したことが確認される。ただし、6、7月の非農業部門雇用者数(累積8.6万人減)は下方修正され、基調を示す3カ月平均(前月比11.6万人増)では増加ペースの減速が明確となっている。パートタイム労働者(同52.7万人)の増加、7月に急増した一時的解雇による失業者(同19.0万人減)の減少などにより失業率は低下したものの、サーム・ルール景気後退指標(0.57%)は2カ月連続で閾値となる0.50%を上回り、労働市場の減速や景気後退への懸念を残す内容と評価される。

 米連邦準備理事会(FRB)は最近の失業率上昇の原因には、労働市場への新規参入者の増加(供給面)と急拡大してきた企業の採用ペースの鈍化(需要面)を挙げ、一般的な景気後退期に観測されるような解雇の大幅増加とは異なることを強調している。労働需給に関しては、4日に発表された7月の求人労働異動調査(JOLTS)では失業者1人あたりの求人件数(1.07件/人)がコロナ禍直前の水準を下回っており、労働需給ひっ迫はすでにほぼ解消されていることが示されている。パウエルFRB議長は、利下げへの政策転換を宣言した8月23日の講演で、労働市場の状況が一段と悪化することを望んでおらず、力強い労働市場を支援するために「出来ることをすべて行うつもりである(We will do everything)」と述べた一方で、「金融政策の制約を適切に弱めること(With an appropriate dialing back of policy restraint)」により労働市場の力強さを維持しつつ2%のインフレ目標へ回帰させられるという認識を示した。「dialing back」という表現には急速に利下げを進めることは含意されておらず、8月の雇用統計での労働市場の減速一服や結果発表後のFRB高官の発言から9月は0.25%利下げの可能性が高まったと考えられる。その反面、金融市場では9月17、18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利が0.50%引き下げられる可能性は依然として約30%織り込まれており、FRBも労働市場の調整に歯止めがかかる兆しがみられるまで利下げペース加速を選択肢に残しておくことが想定される。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏

プレスティア インサイトについて

マーケット情報