Today's Insight

2025/11/13 11:15作成

日銀は政府との対話で利上げの時期を探る

■ 日銀「主な意見」では審議委員内での利上げ機運の高まりがみられる
■ 政治家からは利上げと円安けん制発言が相次ぎ、日銀は政府との対話から利上げ時期を探ろう

 10月29、30日の日銀金融政策決定会合における主な意見(以下、「主な意見」)が10日に公表された。「主な意見」では利上げのタイミングについて、10月の現状維持を適当とする委員からも「利上げを行うべきタイミングが近づいている」や「円安を通じて物価が上押しされるリスクを考えれば、早めの利上げが望ましい」との意見がみられ、利上げに向けた機運の高まりがみられた。一方、10月の日銀会合で植田総裁は「見通し達成の確度が高まっている」とした一方、「春闘の初動のモメンタムを確認したい」と条件を追加し、次回利上げのタイミングを明示せず、慎重な姿勢を示している。2026年度の春闘に関しては、組合側の全体方針は12月頃に判明し、個別企業の具体的な交渉が本格化するのは1月となる。初動のモメンタムをどこまで把握するかでタイミングが変わるが、日銀としては柔軟性を維持したうえで、金融緩和を志向しているとみられる高市政権との対話を進め、利上げ時期を探ることになろう。

 3%近くのインフレが続く一方で、日本の政策金利は0.5%と低位にとどまることから、日本の実質金利は大きなマイナスが続いている。緩和的な金融政策を継続すれば、さらなる円安を招きかねない状況だ。こうしたなか政治家からは、日銀の利上げと円安進行をともにけん制するための発言が足元多くみられる。城内実経済財政相は先週、日銀の金融政策に対し「経済成長も注視してもらいながら、適切な運営を期待する」と述べたほか、日本維新の会の藤田文武共同代表も今国会での補正予算成立を目指すなか、「少し抑制的にタイミングを考えるべき」と発言。円安に対しては、三村財務官が5日、「日米の金利差から想定される水準から乖離している」と市場をけん制し、片山財務相も12日、「(円安の)マイナス面が目立ってきていることは否定できない」とし、「高い緊張感を持って見極めている」などの発言を行った。一連の発言から、政府は円安が加速しない限り、利上げの先送りを望んでいるようにみえる。

 2025年度の補正予算を巡る議論を踏まえると、ガソリン・軽油税の旧暫定税率の廃止、電気・ガス料金補助、重点支援地方交付金、防衛費のGDP比2%引き上げの前倒しなどが織り込まれるものの、財政支出は石破前政権から大幅な拡大とまではならない見込みだ。ここからも、政権が当面の経済成長を支える政策として、財政に加え金融政策を重視していることが示唆される。高いインフレ圧力により金融政策対応が後手に回るリスクは高まっており、日銀の難しい舵取りは続くことになるだろう。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加

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