Today's Insight
2025/6/9 10:30作成
米国:労働市場の緩やかな調整が継続
■ 米国の労働市場は緩やかな調整が続いており、労働需給は均衡しつつある
■ 失業保険受給件数などの一部の指標には労働市場の調整加速の兆しが表れている
6日に発表された5月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数(前月比13.9万人増)が2カ月ぶりに増加ペースが鈍化した。3、4月分が下方修正(累計9.5万人)され、最近の雇用の増勢は前月確認されていたよりも鈍いことが明らかとなったが、依然として過去12カ月間の平均(同14.9万人増)をやや下回る水準にとどまっている。失業率(4.2%)、週平均労働時間(34.3時間)は4月と同水準、平均時給(前月比0.4%増)は物価上昇率を上回るペースで増加した。労働市場の調整が続くなかでも、「相互関税」発表前後で状況は大きく変わらず、総合的には底堅さが保たれていることを示す内容と評価される。非農業部門雇用者数は製造業、政府部門で減少し、サービス業は3カ月連続で増勢を強めた。サービス業のうち教育・ヘルスケア、レジャー・接客で前月比13.5万人増加しており、最近の雇用創出はこの2業種に偏っている。特にレジャー・接客の雇用動向は景気との連動性が高く、今後の雇用の基調判断を左右しよう。
3日に発表された4月の米求人労働異動調査(JOLTS)では、求人件数(739.1万件)が2カ月ぶりに増加したが、趨勢的な減少により失業者1人当たりの求人件数(1.03件/人)は1.0件/人に近づいており、経済全体で労働需給は均衡しつつある。また、解雇件数(178.6万件)や自発的離職件数(319.4万件)の基調に大きな変化はなく、4月時点では企業の人員整理、労働者の求職などの動向に変調の兆候は表れていない。ただし、失業保険受給件数は5月に増加傾向が強まり、週間新規失業保険申請件数(5月31日終了週、24.7万件、4週平均23.5万件)は昨年10月以来、失業保険継続受給件数(5月24日終了週、190.4万件、4週平均189.5万件)は基調を示す4週平均で2021年12月以来の高水準に達している。
米国の高関税政策や日々変わる米政府の政策方針によって、企業は中長期的な事業計画の策定が難しくなっている。関税引き上げが一時的に猶予されている状況でも事業拡大や生産能力増強に向けた労働投入(雇用)、資本投入(設備投資)の抑制に傾きやすく、通商交渉の長期化は労働市場の調整を促しうる。労働需要の超過状態が概ね解消されたため、企業の採用抑制は失業の増加や長期化につながりやすくなっており、調整加速の兆しが確認される場合は金融引き締め度合いを緩める必要性が高まろう。
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏