Today's Insight

2025/7/15 11:00作成

米国株:「TACOトレード」に訪れた環境変化

■ 「TACOトレード」が健在で、S&P500は過去最高値を更新
■ 財政赤字抑制の観点から関税収入の重要性が高まる。「TACOトレード」に変化が生じるか

 米国のインフレ圧力を高め、貿易相手国の景気悪化につながるとの見方から、米国株式市場では米政権の関税引き上げに対し4月頃まではリスクオフの反応が強まった。その後、経済や企業業績への悪影響を警戒し、関税政策が朝礼暮改になると、米政権の交渉術が市場で見切られ始めた。トランプ米大統領はいつも尻込みする(Trump Always Chickens Out)との造語が生まれ、市場では米政権の強硬姿勢に応じてリスクオフの反応を示す必要はないとの見方が強まり、いわゆる「TACOトレード」による株高となっている。米政権の関税政策が強硬化し、リスクオフの動きが生じる場合でも一時的にとどまり、S&P500は過去最高値を更新した。

 トランプ米大統領は関税引き上げについて、貿易相手国から有利な条件を引き出すディールの手段としてきた。しかしながら、7月に入り財政を巡る環境は変化しており、これまでの「TACOトレード」が今後も継続するかは慎重に見極める必要があると思われる。米国では減税・歳出法が4日に成立した。米議会予算局(CBO)は同法の成立により向こう10年の財政赤字規模が3.4兆ドル拡大すると試算しており、5月に米下院を通過した法案(2.4兆ドル)から大きく上振れすることとなった。また、CBOは関税収入の増加により、向こう10年で2.8兆ドル財政赤字が圧縮されると試算しており、関税収入により財政赤字の拡大規模は相応に抑制されることが見込まれている。裏を返せば、財政赤字の規模が想定以上に拡大したため、米政権にとって関税収入の重要度は格段に高まったと考えられる。米政権が7月に入り、貿易相手国との通商協議で強硬姿勢を強めている背景にはこうした思惑があるのかもしれない。市場で関税収入が不十分とみなされれば財政悪化懸念が強まり、米政権が強く警戒する米国債利回りの上昇を促す可能性もあるだろう。「TACOトレード」が継続すると楽観視すべきではないと考える。

 S&P500の平均月次騰落率(2024年までの過去10年)をみると、7月(3.09%上昇)は11月(3.81%上昇)に次ぐ上昇率を記録しており、「サマーラリー」と呼ばれる経験則がある。今年は「TACOトレード」がこうした季節性に拍車をかけているようにもみえる。一方、8月(0.25%上昇)、9月(2.31%下落)のパフォーマンスは振るわず、「夏枯れ相場」と呼ばれる季節性もある。8月にかけて米国と貿易相手国との関税交渉に変化がみられれば、「TACOトレード」が変調をきたし、夏枯れのなか株価調整幅が深まる可能性を認識しておきたい。


投資調査部長
山口 真弘

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