Today's Insight

2025/12/3 11:00作成

新興国通貨:気になる東アジア通貨の動向

■ 11月の新興国通貨の多くは底堅く推移するなか、東アジア通貨の弱さが目立った
■ 東アジア通貨の弱さが地政学的リスクの高まりを示すか注視、来年の動向に影を落とす恐れも

 本稿では、直近の主要新興国通貨の動向を整理する。アジア(中国、韓国、台湾、タイ、インドネシア)、中南米(ブラジル、メキシコ)、東欧(ハンガリー、チェコ)、その他主要国(南アフリカ、トルコ)の11カ国で確認する(データは対米ドル騰落率、11月末時点)。11月の騰落率は、ハンガリーフォリント(プラス1.9%)を筆頭に7通貨がプラスで、トルコリラ(マイナス1.1%)、台湾ドル(マイナス2.2%)、韓国ウォン(マイナス2.9%)など4通貨がマイナスだった。

 主要新興国通貨の多くが底堅く推移するなか、東アジア通貨が7-9月期に続いて弱さをみせている点に注目している。下期(6月末から11月末まで)の騰落率で確認すると、台湾ドルがマイナス6.1%、韓国ウォンがマイナス8.7%と、好調だった上期から一転している。改めて7-9月期の両通貨の軟調推移は、対米通商交渉の難航が背景の一つだったとみている。ただし、10月の台湾輸出は前年比49.7%増の618億ドル、11月の韓国輸出は前年比8.4%増の610.4億ドルと、旺盛なハイテク需要が両国の貿易を支える構図は維持されている。米関税政策の悪影響を巡る過度な警戒感は、抑えられてきたといえよう。また、台湾や韓国では投資家による海外資産への投資資金流出が観測されているものの、金融市場の一部には台湾中銀と韓国中銀による米ドル売り介入や、韓国の国民年金公団(NPS)による米ドル売りに対する思惑もある。現時点で、両通貨の通貨安懸念の浮上には至らないと想定しておきたい。

 一方で、同じ東アジア通貨のなかでも中国人民元は底堅い。下期の中国人民元はプラス1.2%と、主要新興国通貨のなかで南アフリカランド、メキシコペソ、ブラジルレアルに次ぐ上昇率だ。管理変動相場制を採用する中国人民元だが、下期の堅調さは複数回の米中両国の関税引き上げ延期に加えて、中国当局による日々の人民元高誘導が要因とみている。下期の日本円がマイナス8.4%である点や、台湾ドルと韓国ウォンの軟調推移とは一線を画す。

 上記でみた直近の東アジア通貨の動向が、地政学的リスクの高まりを示すものか否か、注視したい。11月に浮上した日中対立の長期化懸念は、その一端の可能性もある。仮に、今後の金融市場で東アジアの地政学的リスクの高まりが意識されてきた場合、2026年の日本円、台湾ドル、韓国ウォンの通貨安要因として値動きに影響を及ぼす恐れもあろう。


投資調査部
シニアマーケットアナリスト
合澤 史登

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