Today's Insight
2025/10/2 11:00作成
欧州:利下げ休止後のECBの次の一手は
■ ユーロ圏の政策金利は他の先進国に先駆けて中立金利水準に達し、ECBは利下げ休止に移行
■ 中期的な物価見通しやリスク要因を踏まえると、次の一手は2026年以降の追加利下げか
ユーロ圏では他の先進国に先駆けて政策金利が中立金利水準に接近したため、欧州中銀(ECB)は前年の6月から継続してきた利下げを今年7月に停止し、9月も2会合連続で主要政策金利を据え置いた。7月時点で「下振れリスクがある」と評価していた経済成長に関しては、7月末の米欧通商合意により通商政策を巡る不確実性が低下したと評価し、9月には「リスクはより均衡している」と認識を上方修正している。ECBは今後も毎会合データに基づいて金融政策判断を下していく方針を維持しているが、ラガルドECB総裁は7月以降、2020年以降のコロナ禍やエネルギー危機に対応した金融政策サイクルは一巡したという見解を示している。物価もインフレ目標水準付近で安定しているため、物価情勢や中期的な物価見通しが大きく変わらない限り追加利下げの必要性は低いと判断していると推測される。
9月のECB理事会で更新されたスタッフマクロ経済予測では、インフレ目標の対象指標である消費者物価指数(HICP)の上昇率は2025年が2.1%、2026年が1.7%、2027年が1.9%と見通されている。2026年1-3月期には現在のエネルギー価格下落の寄与がほぼ完全に剥落し、新たな排出量取引制度(ETS2)導入により2027年にエネルギー価格が上昇すると見積もられるなかでも、2026-27年はインフレ目標を下回る状況が続くことが想定されている。
また、9月のスタッフマクロ経済予測ではエネルギー価格、為替レート、米国の関税政策に関する感応度分析が行われ、ECBがこれらを経済・物価見通しに対するリスク要因として認識していることがうかがえる。為替レートは8月中旬時点のユーロドルのオプション市場から導出される見通しの分布がユーロ高に偏っており、75パーセンタイル相当の水準(2026年:1.24、2027年:1.28)で実質GDP成長率を約0.2%ポイント、HICPを約0.2-0.3%ポイント押し下げると推計された。米国の関税政策では、米国の輸入先多様化、中国の輸出価格引き下げ、国際供給網の滞留の影響が考察された。ECBが米欧通商合意により可能性が低下したと評価する国際供給網の滞留を除くと、影響は中国の輸出価格引き下げの方が大きく、ユーロ圏の実質GDP成長率を2026年に約0.2%ポイント、HICPを2026、27年に約0.1%ポイントそれぞれ押し下げると見積もられている。以上の分析を踏まえると、2026-27年には為替レートや中国の輸出価格の動向次第でインフレ目標からの下方乖離が危惧される状況では、ECBの次の一手は、利上げへの転換よりも2026年以降の追加利下げとなる可能性の方が高いだろう。
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏