Today's Insight

2025/11/10 10:30作成

米国:QT停止と短期金融市場の資金需給

■ 10月中旬以降、米国の短期金融市場では資金需給がひっ迫している
■ FRBのリバースレポ契約残高がゼロに近づいており、レポ市場での余剰資金減少がうかがえる

 米国では10月中旬以降、レポ取引に基づく担保付翌日物調達金利(Secured Overnight Financing Rate、SOFR)が、米連邦準備理事会(FRB)が準備預金に支払う金利を示す準備預金付利金利(Interest on Reserve Balances、IORB)を上回る状況が続いており、短期金融市場で資金需給がひっ迫していることがうかがえる。IORBは法定準備預金に加えて超過準備預金にも支払われ、多額の超過準備預金を保有するFRBが政策金利調整にて誘導目標の下限を規定する手段として用いている。超過準備預金に対する利率であるIORBをSOFRが継続的に上回っていることは、レポ市場での資金調達により高いコストを支払う必要がある状況を意味する。FRBのレポ市場への資金供給手段である常設レポファシリティ(Standing Repo Facility、SRF)の利用額もこの間に増加しており、資金需要が強いことを示している。

 10月28、29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)にて11月末での米国債の保有残高縮小(QT)停止が決定されたが、FRBの負債項目のうちリバースレポ契約(RRA)残高(海外口座を除く)は、最新データ(11月5日時点、約128億ドル)で2023年のピーク時(約2.3兆ドル)から99%以上減少している。FRBは1日2回のSRFなどでレポ市場への資金供給を行うと同時に、翌日物リバースレポ(ONRRP)で市場の余剰資金を吸収するオペレーションを行っている。RRA残高がゼロに近づいていることはレポ市場での余剰資金が減少し、市場の資金需給が均衡に近づいていることを示唆する。また、FRBの負債項目のうち米財務省一般勘定(TGA)預金残高は政府債務上限が引き上げられた7月以降増加し、最新データ(11月5日時点、約9410億ドル)では2021年以来の水準に達している。この過程は、米財務省短期証券(T-Bills)発行を通じて従来ONRRPなどで運用されていた市場資金を吸収する要因であった*1。米財務省が3日に公表した市場性資金調達計画(Marketable Borrowing Estimates)からは現金残高復元が7-9月期で完了したことがうかがえ、今後この影響は緩和することが見込まれる。

 資金需給がひっ迫しやすい月末、四半期末にはSOFRがIORBを一時的に上回ることはあるものの、継続的に上回るのは2019年のレポ市場の混乱や2020年のコロナ禍直後以降初めてとなる。もっとも10月31日に0.32%まで拡大したSOFRとIORBの乖離は11月以降縮小しており、資金需給ひっ迫は解消に向かっている。QT停止により準備預金残高減少は11月で歯止めがかかり、短期金融市場で資金需給ひっ迫が想定される年末が次の焦点となりそうだ。

*1 詳細はPRESTIA Insight 2025.07.30「米国:債務上限引き上げ後に迎える短期金融市場の変化」


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏

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