Today's Insight

2025/12/4 9:40作成

日本経済:12月利上げへの素地は整う

■ 企業利益や設備投資は底堅く、米関税引き上げの悪影響は限定的
■ 日銀と政府の対話進展で12月利上げの素地は整うも、さらなる利上げへのハードルは残ろう

 1日公表の7-9月期の法人企業統計調査では、名目設備投資(ソフトウェア含む、前期比1.4%減、前年比2.9%増)は、製造業の減少(前期比5.1%減、前年比1.4%増)が主因となり、6四半期ぶりに前期比で減少した。同調査はGDP統計の設備投資の算出に用いられる基礎資料であり、今回の結果を踏まえると、12月8日公表予定の7-9月期GDPの2次速報値では、実質設備投資が1次速報時点での前期比1.0%増から下方修正される可能性が高いだろう。もっとも、同調査の非製造業の設備投資(前期比0.7%増、前年比3.9%増)は堅調な伸びをみせているほか、人手不足に対応した省力化投資や人工知能(AI)関連の需要が牽引し、設備投資全体は高い水準を維持している。

 設備投資の底堅さは、企業利益の堅調さに支えられている。経常利益は、製造業(前期比5.9%増、前年比23.4%増)・非製造業(前期比2.1%増、前年比17.6%増)ともに増加し、2四半期連続でプラスとなった。輸送用機械などの業種では減少がみられるものの、全体では既往ピークを更新している。ロイター短観調査(11月業況判断DI・製造業:17、前月比9ポイント上昇;非製造業:27、前月比変わらず)などのサーベイデータでは、夏場以降製造業を中心に企業マインドの改善が続いており、米関税引き上げの影響を巡る不確実性が企業活動全体に悪影響を及ぼしている兆候はみられない。また、法人企業統計調査を基に算出される7-9月期の労働分配率*をみると、過去4四半期平均は55%と2024年初からほぼ横ばいが続く。より長期的にみれば、日本の労働分配率*は2010年初以降低下傾向がみられ、当時の70%程度からは低い水準が続く。マクロ全体でみれば、企業には利益水準対比で依然として賃上げの余力はあるとみてよいだろう。

 1日の講演において、植田日銀総裁は「次回会合で、利上げの是非について、適切に判断していきたい」と述べた。これは金融緩和を志向するとされた高市政権との対話が進展し、12月の日銀金融政策決定での利上げに向けた調整がまとまった可能性を示唆する。物価高も続くなか、経済的なファンダメンタルズに関しては、追加利上げへの条件はすでに整っており、そうした認識は多くの日銀審議委員の講演や10月29、30日の日銀金融政策決定会合における主な意見でも示されてきた。今後はさらなる利上げ余地がどれほどあるかが注目されようが、日銀が段階的な利上げを目指すなか、政府がこれを抑えようとする可能性は残るだろう。

* 企業が生んだ付加価値に占める人件費の割合。人件費/(経常利益+人件費+減価償却費)により算出。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加

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