Today's Insight

2025/7/18 11:40作成

日米英:落ち着かない超長期国債市場

■ 4月の米タームプレミアム上昇から、主要先進国の超長期国債市場は安定感を欠く状況が続く
■ 政府は収束を図るが財政不安を高める材料は残る、金融市場の懸念は格下げの有無と想定

 4月以降、主要先進国の超長期国債市場は安定感を欠く状況が続いている。当初のきっかけは、米国のトランプ政権が打ち出す政策に対する不透明感を受けた米国のタームプレミアム上昇だった。情報会社Bloombergのデータによると4月末時点で、主要先進国の2年国債と30年国債の利回り差(以下、2-30年スプレッド)は、米国が1.07%、英国が1.40%、日本が2.03%と、3月末時点(米:0.69%、英:1.09%、日:1.69%)から拡大基調に転じた。

 こうした傾向は、トランプ政権による相互関税と品目別関税を巡る不透明感の高まりも影響しているとみられるが、各国独自で財政不安を高める材料も指摘できる。具体的に整理すると、米国では7月4日にトランプ大統領の署名で成立した「減税・歳出法案」での歳入減少分を関税収入でどの程度穴埋めできるか、となろう。また、英下院で同1日に可決された福祉制度改革法案は、当初の歳出削減規模が撤回に追い込まれたうえ、同2日には歳出削減に積極的なリーブス財務相が辞任を迫られるとの思惑から、英国市場では株安・金利上昇・ポンド安の「トリプル安」で反応した。日本では、同20日投開票の参議院選挙の結果を巡って、連立与党の参議院議席数の過半数割れと消費税減税実施への思惑が一段と強まっている。

 各国政府は事態の収束を図っている。米政権は「減税・歳出法案」に債務上限の5兆ドル引き上げを盛り込み、今年夏に迫っていた債務不履行懸念の後退に成功している。英国では、7月3日にスターマー首相が財務相辞任を即座に否定したうえで歳出削減方針を明言。日本では、6月23日に財務省が年度中にもかかわらず2025年度の国債発行計画で超長期国債の発行減額を正式決定した。これらの措置は、各国国債市場の安心感につながった面もあった。

 ただし、2-30年スプレッドの拡大基調は続き、主要先進国で国債利回り上昇への警戒は残る。一般的に、歳入不足の穴埋め手段としての国債増発は利回り上昇圧力につながる。そうしたなか、特に日本に対する金融市場の懸念は、大手格付会社による信用格付けの引き下げと想定する。格下げは一部投資家へ国債売却を促すうえ、当該国企業の信用リスクに直結する。また、国債の担保価値低下を踏まえると、本邦金融機関で外貨調達リスクの高まる事態が想定される。参議院選挙終了後、当面は信用格付けに関する話題にも注視したい。


投資調査部
シニアマーケットアナリスト
合澤 史登

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