Today's Insight
2026/1/30 10:50作成
EU:地政学リスクの高まりで他国との貿易交渉を加速
■ 地政学的リスクの上昇から、EUは対米・対中のデリスキングを念頭に他国との貿易交渉を加速
■ ただし内部の足並みが揃わないなか、EUの経済安全保障の強化は困難の多い道のりとなろう
地政学的な不確実性が高まるなか、欧州連合(EU)は経済安保の強化に向けた戦略的な動きを加速させている。その一つとして、2026年に入り相次いで承認された南米南部共同市場(メルコスル)やインドとの自由貿易協定(FTA)の締結が挙げられよう。欧州委員会(EC)は、2023年に初めてEUの経済安全保障戦略を公表し、重要原材料などのサプライチェーンの多角化やFTAなどパートナーシップの締結を推進してきた。これは当初、特に対中国のデリスキング(特定の地域との経済関係を維持しつつ、過度な依存を避けてリスクを低減する戦略)を念頭に置いていたとみられるが、特に2025年以降、トランプ米政権の新たな措置発表などの強硬姿勢を受けて、対米国も念頭にこうした動きが加速している。
EUはグローバルサウスのなかでも、特に人口や経済規模が大きい国との貿易協定の締結を急ぐ。ECのリストをみると、EUの各国・地域との貿易協定が4つのカテゴリに分類されている。(1)日本を含む80カ国との貿易協定はすでに発効済みだ。また、(2)27カ国との協定が批准される過程にあるとされ、これには昨年最終合意したインドネシアに加え、今年交渉が妥結されたメルコスルやインドとの貿易協定が含まれる。さらに、(3)交渉中のリストには8か国が並び、オーストラリア、インド(投資保護などの協定)、マレーシア、フィリピンなど、主にアジア諸国と新規取引への活発な交渉が行われている。最後に、(4)保留のリストには主にアフリカや中東諸国など20カ国が並んでおり、長いもので1990年から、短いものでも2015年から10年以上保留が続く。
中長期的な貿易協定の経済効果は大きくなりそうだ。ECは、メルコスルとの協定はEUの輸出を2024年までに39%(約500億ユーロ)増加させ、インドとの協定は2032年までに107.6%(約500億ユーロ*)増加させるとの試算を示す。また、ラガルド欧州中央銀行(ECB)総裁は昨年10月の講演で、米関税引き上げで対米輸出が「約660億ユーロ減少する」との試算値を示した。試算の前提などが明確ではないため単純な比較はできないが、こうした協定が無事に発効し、経済効果が顕在化すれば、中長期的に米国との貿易の減少を相殺することも可能になろう。ただし、交渉に25年を要したメルコスルとの協定の発効は、大きく遅れる可能性が出てきた。欧州議会は21日、欧州司法裁判所に貿易協定の法的意見を求める決議を可決。南米の安価な農作物流入への懸念が農業大国フランスなどで根強いことなどが背景にある。内部の足並みが乱れるなか、EUの経済安保の強化は困難の多い道のりとなりそうだ。
* 2024年のEUの対インド輸出額から計算。
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加



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