Today's Insight

2025/9/26 12:15作成

日本経済:インフレで変わる財政状況

■ 自民党総裁選で財政政策が注目されるが、財政状況はインフレによる税収増により改善傾向に
■ ただしインフレ圧力による日銀の政策正常化で、政府が大規模な財政拡大を進めることは難しい

 石破首相の辞任発表により、10月4日投開票の自民党総裁選に向けて、候補者の財政・金融政策スタンスが注目される。こうしたなか足元の日本の財政状況を確認すると、財政収支は急速に改善している。政府が作成する財政の中長期試算(2025年8月時点)によれば、基礎的財政収支の赤字は、コロナ禍で急拡大した2022年度の9.1%から、2024年度は1.2%、2025年度は0.5%にまで大きく縮小する見込みだ。この主因は税収増であり、円安やインフレにより法人税や消費税が増加したほか、賃上げによる所得税増が寄与した。4年連続で当初予算対比での税収上振れが続いており、来年度の黒字化も視野に入る。公的債務残高(対名目GDP比)は200%を超え、米国の120%やドイツの60%程度と比較して非常に高い。しかし2023年以降は10%ポイント低下している。市場で懸念される日本国債の格下げまでは、まだバッファーがあるといえるだろう。

 足元の財政状況の改善に寄与したのは、インフレ税にほかならない。インフレ税とは、物価上昇でお金の価値が低下することにより、政府の借金が軽くなることを指す。その分、家計の保有資産の目減りによる購買力の低下や、企業の名目利益拡大による法人税収増により、民間から政府に実質的な資金が移転する。特に家計の負担増に伴う不満が衆院選での与党の大敗を招いたといえ、総裁選でも物価高対策が論戦の中心となっている。小泉・高市氏らが所得税の基礎控除の引き上げ、茂木氏は自治体を通じた交付金などの家計支援を打ち出す。

 ただし、物価上昇に伴い日銀が政策正常化を進めるなか、政府が大規模な財政拡大を進めることは難しいだろう。日銀は段階的な利上げ方針を維持し、国債保有残高の削減も進めており、政府は先行きの国債の利払い費上昇に備えなければならない。市場の規律が回復しつつあることから、積極財政は長期金利の上昇を通じて財政リスクを高めよう。その警戒感からか、候補者でもっとも財政拡張的なスタンスをとる高市氏も、総裁選では、社会保障費の基礎的財源である消費税減税の提案を取り下げている。9月の日銀金融政策決定会合では、予想通り政策金利が据え置かれたが、利上げを主張する2票の反対票が投じられた。高いインフレ圧力が続くなか、政策がビハインドザカーブとなるリスクが高まっており、日銀は利上げのタイミングを見計らっているとみられる。当行は引き続き10-12月期の利上げを見込む。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加

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