Today's Insight

2025/11/25 10:45作成

米国経済:強弱まちまちの指標にFRB内で広がる温度差

■ 9月雇用統計は、予想以上の雇用増となった一方、失業率は着実に上昇し強弱入り混じる
■ FRB内でも12月の据え置きと利下げで意見が分かれ、データ不足のなか難しい政策判断に

 1カ月半にわたる政府機関の一部閉鎖が終了し、11月20日に9月の雇用統計が公表された。また、米労働統計局(BLS)は先週、この9月分が12月9、10日開催予定の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)前に公表される最後の雇用統計となることを発表し、結果の重要性はやや増すことになった。9月の雇用統計は強弱入り混じる結果であり、米連邦準備理事会(FRB)内の次回会合での利下げを巡る意見の相違をどちら側からもサポートできる内容になっている。非農業部門雇用者数(前月比11.9万人増)は4月以来最大の伸びとなり、景気後退への懸念を和らげる内容となった一方、失業率(4.4%、前月比0.1%ポイント上昇)はサイクル最高水準に達した。非農業部門雇用者数の内訳をみると、民間部門ではヘルスケア(同4.3万人増)や娯楽・接客サービス(同4.7万人増)が伸びを牽引。一方で、製造業(同0.6万人減)などの部門では減少が続き、弱さもみられる。失業率は6月4.1%、7月4.2%、8月4.3%、9月4.4%と着実に上昇している。9月は労働参加率の上昇に伴って失業率が押し上げられている面もあるが、失業率の計算に使用される家計調査に基づく失業者数(前月比25.1万人増)は9月に大きく増加している。振れがかなり大きい系列ではあるものの、これは懸念材料だ。一方で、平均時給(前月比0.2%増、前年比3.8%増)はやや持ち直しており、こちらは好材料といえよう。総じてみれば、労働市場の減速は続いているが、大きく崩れるには至っていないとの見方が維持される結果だ。

 10月28、29日開催のFOMCでは、25bpの利下げと12月からの量的引き締め(QT)の停止が決定されたが、パウエルFRB議長は「12月の利下げは既定路線ではない」として慎重なスタンスを示していた。同会合の議事要旨では、大多数の参加者から中期的な利下げスタンス維持の姿勢が示された。しかし12月会合においては、数名(several)が「利下げが適切」とする一方、多く(many)は「据え置きが適切」と意見が割れており、FRBの高官発言でも大きく見方が分かれる。足元の発言を踏まえると、(今年の投票権を持たないメンバーを含む)地区連銀総裁は据え置きを支持する意見も多くみられ、理事は利下げ支持が多いようだ。ウォラー理事は最近の講演で、10月下旬までのADP週次雇用報告の弱含みを懸念材料として挙げたうえ、直近数カ月の雇用統計が下方修正される可能性を指摘。失業率が上昇している時期に基準値改定でのマイナス修正が頻発していることから、足元の労働市場が想定以上に弱含んでいる可能性も否定できない。次回会合では、データ不足のなか、FRBは難しい政策判断を迫られることになるだろう。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加

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