Today's Insight

2024/4/24 11:30作成

グローバル:「最後の1マイル」で複線化する金融政策

■ IMFは金融政策の信頼を高めるため、インフレ再加速への対応で引き締め的政策の継続を提言
■ 金融引き締め継続の弊害に対しては、原則として金融規制・金融監督での対応を主張した

 先週、米国ワシントンにて国際通貨基金(IMF)と世界銀行グループの年次総会・春季会合が開催され、世界各国の財務相、中央銀行総裁や国際機関の高官が一堂に会し、世界経済の見通し、金融・財政の安定性、経済課題などが協議された。

 IMFは最新の「世界経済見通し(World Economic Outlook、WEO)」で、世界の成長率見通し、インフレ率見通しを上方修正した。世界全体ではコロナ禍後の経済への後遺症(供給網の混乱、エネルギー危機など)が想定よりも小さく、景気の底堅さとインフレ抑制の順調な進展が続いていることを踏まえて、景気軟着陸の実現に自信を示した。多くの先進国で物価上昇率が中央銀行のインフレ目標を上回る状況にあるものの、米国や豪州などIMFの推計で正の需給ギャップ(インフレギャップ)を抱える国と、ユーロ圏や英国など依然として負の需給ギャップ(デフレギャップ)を抱える国では経済状況が異なり、自国の状況に応じた金融政策対応を求めた。米国、豪州では物価安定に向けて過熱気味の需要抑制策を継続する必要があるが、ユーロ圏、英国では経済活動への過度な制約を避けるため、インフレ抑制の進展が確認されれば金融引き締めを緩めていく余地が相対的に大きいと指摘している。なお、日本は若干のインフレギャップに転じており、緩和的な金融環境を転換していく必要が示唆された。

 また、最新の「国際金融安定性報告(Global Financial Stability Report、GFSR)」でも、「最後の1マイル」に差し掛かるインフレ抑制と金融政策対応がテーマの1つに取り上げられた。WEO同様、インフレ再加速の兆候がみられる一部の国では、政策目標への信頼を高めるため、金融緩和への転換という投資家の期待に中央銀行が抵抗する必要があると提言された。金融安定性の観点では、投資家の期待への異議が金融市場の変動性を高め資産価格の調整を促す要因になること、金利上昇による債務返済や借り換えコストの増大を招くことなどの弊害も指摘したものの、これらの課題には原則として金融規制・監督で対応すべきで、政策金利調整ではあくまで物価安定の実現を優先する必要があることを主張した。

 以上のような認識は各国の中央銀行の間でのコンセンサスであり、今後の政策判断における共通基準であると考えられる。現在の経済状況が続くならば、利下げ開始時期やペースには各国で差が生じることになるだろう。


投資調査部
マーケットエコノミスト
祖父江 康宏

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