Today's Insight
2026/6/22 10:30作成
米国:フォワードガイダンス撤回で得るものと失うもの
■ フォワードガイダンス撤回は金融政策の柔軟性を高める反面、市場期待の変動性も高める
■ 平時には問題にならないものの、物価や財政が懸念されると長期金利の制御は困難に
6月5日のPrestia Insightで、タームプレミアム拡大は金融政策の伝播効果を低下させるため、米連邦準備理事会(FRB)は「第三の責務」である「適度な長期金利」を維持するには「二つの責務」である「雇用の最大化」と「物価の安定」の遂行では不十分となる可能性があることを紹介した*1。このような状況での中央銀行の対応としては、(1)国債買い入れやイールドカーブコントロールなどの非伝統的金融政策、(2)フォワードガイダンスなどコミュニケーション強化、(3)財政政策との協調などにより市場金利に対する影響力を強化することが考えられる。
(1)は長期国債の買い入れや長期金利の誘導(イールドカーブコントロール政策など)により中央銀行が債券市場でのプレミアムの抑制に直接働きかける手段である。市場への資金供給量が増加し金融緩和効果が生じるため、インフレ抑制が課題となる昨今の状況では「物価の安定」の阻害要因となる。(2)は将来の政策金利経路を示し、金融市場の期待形成に働きかける手段である。金融緩和・引き締めを問わず採用できるが、ガイダンスへの信用を伴わなければ効果は期待できず、中期的な金融政策の制約要因となる。(3)は政府と共同で財政規律や債務管理へのコミットメントを示し、債券市場で織り込まれるプレミアムの抑制を目指す。緊縮的な財政政策などの規律強化が中心となるため中央銀行単独での対応は限られる。
16、17日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)では、5月に就任したウォーシュFRB議長の主導により、現在の情勢に適していないという理由で声明文からフォワードガイダンスが削除された。タームプレミアムとの関連では上記(2)に逆行する政策方針の変更となる。FOMCでは、コミュニケーション、バランスシート政策などの5つのタスクフォースを立ち上げ、金融政策の枠組みを包括的に見直す意向も表明されている。新たな金融政策の枠組みに関しては今後明らかとなる詳細を踏まえて改めて考察する予定だが、筆者の第一印象では主に金融政策の柔軟性を高める目的があると推測される。反面、将来の政策金利経路に関してFRBから発信される情報は減少することが見込まれ、長期的な物価、財政などに関する金融市場の期待は変化しやすくなることが想定される。タームプレミアムの安定と金融政策の柔軟性確保はトレードオフの関係と考えられ、平時に問題となる可能性は低いものの、ひとたび物価や財政が懸念される状況になると、タームプレミアムは拡大しやすくなり長期金利の制御は従前よりも困難になろう。
*1 詳細はPRESTIA Insight 2026.06.05「米国:タームプレミアムとFRB「第三の責務」」
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏



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