Today's Insight

2024/3/29 11:00作成

米国:景気変調懸念を払拭するGDIの大幅増加

■ 米国では2022年10‐12月期以降、実質GDIの低迷が続き、実質GDPとの乖離が広がっている
■ 純金利・雑収支などでGDIの過小推計が指摘され、個人所得の増勢は保たれている

 昨日発表された昨年10‐12月期の米実質GDP成長率確定値(前期比年率3.4%)は改定値(同3.2%)から上方修正され、前期(同4.9%)に続いて潜在成長率を大幅に上回る成長を維持していることが改めて確認された。確報値で明らかとなった国民総所得(GDI)など所得面のデータをみると*1、実質GDI(前期比年率4.8%増)は実質GDPを上回る増加率となった。この結果、2022年10‐12月期以降、実質GDP(昨年10‐12月期:年率換算22.68兆ドル)と実質GDI(同22.23兆ドル)の乖離が急拡大していたが、5四半期ぶりに縮小した。

 「三面等価の原則」に基づくと、理論上、名目値では一国の付加価値を生産面、分配面、支出面から集計する国内総生産(GDP)、国内総所得(GDI)、国内総支出(GDE)は一致することになる。前期まで実質GDPに比べて実質GDIの拡大ペースが極めて鈍く、個人消費、設備投資など支出面からの算出値であるGDE(三面等価の原則に基づき、通常、実質GDP成長率は実質GDE成長率を指す)が示すよりも米国経済の実際の成長率は低いとも指摘されていた。GDIの内訳をみると、2022年10‐12月期以降の純金利・雑収支の減少が乖離の主因に挙げられる。2022年以降の大幅な米政策金利引き上げが純金利・雑収支に十分反映されておらず、GDIの過小推計につながっている可能性がある。2023年10‐12月期は純金利・雑収支が増加し、企業への分配を示す企業利益が大幅に増加したため、GDEとGDIの乖離は縮小した。今後反映されるデータや改定により、事後的にはさらに修正されていくことが見込まれる。

 公表元の米商務省経済分析局(BEA)は、両指標の乖離に関して、GDEの方がGDIよりもタイムリーかつ広範なデータに基づいており信頼性が高いとの見解を示している。実質GDPよりも経済の実態を的確に表すといわれる実質GDPと実質GDIの平均値(前期比年率4.1%増)は、前期に引き続き潜在成長率を上回るペースで増加している。また、実質GDIのうち家計部門への分配に相当する個人所得(従業員報酬、事業主所得など)の増勢は特に鈍化している訳ではなく、他の経済統計で確認されている個人消費や労働市場の底堅さとも整合的である。以上を踏まえると、実質GDIの低迷が米景気の変調や家計部門の所得対比での過剰消費などを示していると判断するのは早計であり、今回の結果はBEAの見解を裏付ける内容であったと考えられる。

*1 GDIなどは10-12月期のみGDP確報値で発表され、10-12月期以外ではGDP改定値で発表される


投資調査部
マーケットエコノミスト
祖父江 康宏

プレスティア インサイトについて

マーケット情報