Today's Insight

2026/3/17 12:30作成

欧州経済:ECBの利上げまではまだ距離があるか

■ 3月ECB会合では、ラガルド総裁の利上げ観測への回答やマクロ経済予測シナリオ分析に注目
■ 2022年のインフレショックと状況が異なり、ECBはデータ次第・会合ごとの姿勢を当面示すだろう

 3月18-19日に開催予定の欧州中銀(ECB)理事会では、政策金利は据え置かれる見込みだ。今回の会合では、ラガルドECB総裁の記者会見でのメッセージとスタッフマクロ経済予測が注目される。イラン情勢の緊迫化によるエネルギー価格の上昇を受けて、カジミール・スロバキア中銀総裁が「4、6月会合において、必要があれば行動する用意がある」と述べたほか、市場でも7月までの利上げが7割程度織り込まれている。ラガルド総裁は、情勢の不確実性が高いなか、今後の政策決定はデータ次第で会合ごとに判断する姿勢を示すとみられるが、こうした市場で高まる利上げ観測への質問に対し、どのような回答を行うかに注目したい。

 今回のスタッフマクロ経済予測では、成長率の下方修正とインフレ率の上方修正が見込まれるが、中心的な見通しは小幅な変更にとどまる可能性があろう。注目されるのは、原油価格の想定を変えたシナリオ分析が示されるかどうかだ。過去に中東情勢が不安定化した2023年12月のシナリオ分析では、ホルムズ海峡の3分の1が破壊された場合を想定したシミュレーションが行われ、エネルギーショックに対し金融引き締め方向ととれる結果が示されている。この試算では、原油とガス価格の加重平均がベースラインから64%上昇(原油価格130ドル/バレル、ガス価格83ユーロ/MWh)すると、1年目はインフレ率が0.85%ポイント上昇する一方、成長率は0.65%ポイント低下する。その後2年目には、需要低迷によるインフレ鈍化よりも、エネルギー価格上昇によるインフレ加速の影響が強くなり、インフレ率の上振れが続く結果となっている。当時、上記シナリオは「極端なもの」と記されていた。ホルムズ海峡が事実上封鎖される今回のエネルギーショックに対して、ECBがどのようなシナリオ分析を行うかに注目したい。

 上記のスロバキア中銀総裁の発言や以前のECBのシナリオ分析は、利上げの蓋然性を高めるものだが、現状では年内の利上げをメインシナリオとするには時期尚早とみている。利上げへの焦点となるのは、エネルギー価格上昇の二次的波及、およびインフレ期待が変化するかだ*。この点、エネルギー価格とともにコア消費者物価が急騰した2021-23年のインフレショックとは状況が異なる。当時は、コロナ禍後の需要急増で財・労働力不足が発生するなか、ロシアのウクライナ侵攻で天然ガスや穀物供給へのショックが起きた。天然ガス価格の上昇は当時よりまだ穏やかなうえ、足元の欧州経済は回復基調にはあっても、需要急増には直面していない。政策金利が中立金利水準にあることも、ECBにとって状況見極めまでの慎重姿勢を促すだろう。いずれにしても、今週の会合でのECBのメッセージに注目したい。

* 「PRESTIA Insight 2026.03.05_欧州経済:イラン情勢緊迫化の経済への影響」も参照。


投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
米良 有加

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