Today's Insight
2025/12/19 11:00作成
欧州:ECBは政策金利調整の必要性を示さず
■ ECBは主要政策金利を4回連続で据え置き、今後も毎回データに基づいて政策判断を下す方針
■ 利下げ終了や将来的な利上げが意識され始めているが、ユーロ高は今後の物価安定の焦点に
欧州中銀(ECB)は18日の理事会で、政策金利誘導目標の下限に相当する中銀預金金利(DFR)など3種の主要政策金利の誘導目標の据え置きを決定した。政策据え置きは7月以降4回連続で、声明文の政策ガイダンスに変更はなく、今後も毎回データに基づいて適切な政策決定を行っていく方針が示された。インフレ目標付近での物価安定が続くなかで金融政策を早期に見直す必要性は高まっておらず、ラガルドECB総裁はECB理事会後の会見で、現在直面している不確実性を踏まえるとフォワードガイダンスを提示することはできないと明言した。リスク評価では、物価見通しの下振れ要因に、米国の関税政策に伴う輸出需要減少、中国を念頭に置いた過剰生産能力を有する国のユーロ圏向け代替輸出増加、ユーロ高など、上振れ要因に、世界的な供給網の分断、賃金高騰圧力低減の遅れ、2026年以降予定される防衛・インフラ支出拡大、気候変動などが挙げられ、上振れ要因として賃金高騰圧力低減の遅れが加えられた。今回更新されたスタッフマクロ経済予測では、2025-27年の実質GDP成長率が上方修正され、見通し期間に追加された2028年まで1%台前半の成長が継続すると見通された。消費者物価指数(HICP)上昇率は2026、27年の見通しが修正され、2027年までインフレ目標の2%を下回る状況が続くことが示唆されている。
DFR(2.00%)はECBの中立金利の推計値(1.75-2.25%)に収まっており、物価見通しの下振れ懸念が高まらない限り、慎重な政策姿勢が維持されることが見込まれる。8日にシュナーベルECB理事が次の政策金利調整が利上げになるとの見解を示し、利下げ終了や将来的な利上げが意識され始めているが、ラガルドECB総裁は会見で政策金利調整の時期や方向性に関する明言を避けた。足元で原油・天然ガス価格の下落やユーロ高が進行しつつあり、基準日のエネルギー価格や為替レートのほぼ横ばい推移を前提とするスタッフマクロ経済予測の物価見通しの下振れ要因となりうる。スタッフマクロ経済予測の感応度分析では、ユーロドルが2026年に1.21ドルまで上昇する場合、HICP上昇率は同年の見通しである1.9%を0.1%ポイント下回るシナリオが示されている。インフレ目標からの下方乖離が一段と広がり、利下げの必要性を高めよう。デギンドスECB副総裁はユーロ高が進行した7月に、ユーロドル1.20の水準では状況が複雑になると述べている。ほどなくユーロ高に歯止めがかかりECBの為替に関する言及は減少したものの、ユーロドルは7月の水準が視野に入り、物価見通しの前提である1.16ドルを上回るなか、今後、物価安定の焦点に再浮上すると考えられる。
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏



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