Today's Insight
2025/7/14 11:00作成
中国:次期五カ年計画に向け年後半は財政政策を活用か
■ 中国では今秋、2026年から2030年までの第15期五カ年計画が策定される予定
■ 高関税の影響で景気減速が見込まれる年後半は次期五カ年計画に向けて景気下支えを企図か
中国は今年、第14期五カ年計画(十四五、2021-25年)の最終年を迎える。五カ年計画では経済・社会の発展のため、イノベーション、民生福祉、環境保護、安全保障など分野ごとの目標が掲げられ、今秋開催が見込まれる中国共産党第20期中央委員会第5回全体会議(五中全会)にて、第15期五カ年計画(十五五、2026-30年)の策定が行われる予定である。
「十四五」では、「質の高い経済発展」を掲げ、成長率などの目標を設定した経済規模の追求から質を重視する経済成長への方針に転換した。前計画の「十三五」で具体的な数値目標(年平均6.5%以上)が設定された実質GDP成長率は「合理的区間を維持し、各年度の状況に応じて提示」すると改められている。また「双循環」という概念を新たに打ち出し、外需の成長依存度を下げて内需主導型経済への転換を図る方針も明確となった。2025年までに世界の製造強国入りを目指す「中国製造2025」を発表した2015年以降、米国との対立が激化し、現在このスローガンは実質的に取り下げられているが、「十四五」でも科学技術の自立自強を重要課題とする基本方針に変更はなく、次世代人工知能、量子情報など7つの先端技術分野に対象を広げて目標が掲げられている。「十五五」では米国との通商摩擦の新たな火種となりうる表現を避けつつ、科学技術の自立自強の方針が引き継がれ、米国との中長期的な経済的分断を念頭に内需主導型経済への転換を一段と推進していくことが想定される。
3月の全国人民代表大会(全人代)での政府経済報告では、2025年は「十四五」の目標を確実に達成しつつ、「十五五」に向けて基盤強化を図る必要性が表明された。不動産など過剰資本ストックの調整や米中通商摩擦激化により構造的に景気抑制圧力が強まるなかでも、成長率目標を前年の「5.0%程度」に据え置き、「より積極的な」財政政策によって内需拡大を目指す方針が掲げられている。5月までは中国政府の買い替え支援策拡充による個人消費の復調が生産や輸出の減速を補う状況が続いており、4-6月期も前年比5%を上回る成長が保たれる可能性が高い。5月の米中合意により100%を上回る米国からの著しい高関税は回避される公算が大きくなったものの、30%を上回る高関税の影響は累積し、年後半は景気が徐々に減速することが見込まれる。中国政府は「十五五」に向けた移行を順調に進めるため、「5.0%程度」の成長が危ぶまれる場合や通商摩擦の影響が波及し内需が低迷する場合は、財政政策を一段と積極化させ景気下支えを図る誘因が例年以上に強いと考えられる。
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏