Today's Insight
2026/5/13 10:00作成
中国:デフレ脱却と「内巻式競争」の是正
■ 中国では3月に生産者物価指数が上昇に転じ、工業部門も約4年ぶりの高い利益率を記録した
■ デフレを脱しつつあるが、産業政策や経済構造改革の副作用である「内巻式競争」解消は難題に
中国では、生産者物価指数(PPI、4月:前年比2.8%上昇)が3月に2022年9月以来の上昇に転じ、工業部門企業利益(3月:年初来同15.5%増)も2021年12月以来の高い増加率を記録した。PPIの上昇は採掘、原材料など川上工程の寄与が大きいものの、工業部門の業績改善も進展しており、デフレ脱却や製造業など工業部門の業績改善が進展しつつあることがうかがえる。これらの一因には中国政府が昨年から取り組む「反内巻」政策が挙げられる。
「内巻」という中国語は、過剰な競争によって参加者全員が消耗する不毛な状況を表しており、個々の参加者が限られた資源や機会のなかで競争が激化する「合成の誤謬」的な現象と整理できる。企業間競争に当てはめると、限られた市場で限界費用(財・サービス販売を1単位増やす際にかかる総費用)を下回るような低価格競争、規模の経済性を追求した過剰投資など、業界全体での収益性低下や債務累積を伴う過当競争を指している。中国では中央政府主導で産業育成の方針が決定され、実働を担う地方政府の間で産業補助金投入や優遇政策が競われるため、特定分野に新規参入や投資が集中しやすく、重複などの非効率な資源配分が促されやすい。このような産業政策が「内巻的競争」の土壌となり、近年は新エネルギー車(NEV)、太陽光パネルなどの重点産業でも観測される。工業部門企業利益のデータから主要産業別の売上高利益率を計算すると、NEVが含まれる自動車製造業は2014年、太陽光パネルが含まれる電気機械・機器製造業は2016年をピークとしていずれも利益率が2025年まで趨勢的に低下している。2026年の最新データでは、工業部門全体の売上高利益率は3月として4年ぶりの水準へ改善したものの、自動車製造業、電気機械・機器製造業の売上高利益率は前年から一段と低下しており、厳しい競争が続いていることを示唆している。
2024年12月の中央経済工作会議で「内巻式競争」の是正が課題に挙がり、2025年から解消に動き出している。経済全体でPPIや企業業績などが上向きつつあることは過剰な価格競争の是正やマージン適正化の兆しであり、一部を除きデフレスパイラルに陥る可能性は低下したと考えられる。ただし、「内巻式競争」は政府主導で急速に進む経済構造改革の副作用であり、上記以外の重点分野でも今後同様の問題が表面化する可能性をはらんでいる。
投資調査部
シニアマーケットエコノミスト
祖父江 康宏



Japanese
English
