Today's Insight
2025/11/7 11:00作成
米国:銀行融資で懸念される動きが垣間見える
■ 融資需要は急回復、米銀の融資基準は厳格化領域のなかでやや緩和した
■ ノンバンクの不良債権増加による景気減速を警戒、金融システム不安にはつながらないだろう
米連邦準備理事会(FRB)は4日に、最新のシニア・ローン・オフィサー・オピニオン・サーベイ(SLOOS)を公表した。これはFRBが米金融機関の融資担当者に対して3カ月前と比較した融資基準や資金需要などの変化について四半期ごとに聞き取り調査を行うもので、調査対象となる金融機関は9月22日に調査票を受け取り、10月3日までに回答した。
大・中企業(年間売上高5千万ドル以上)向け商工業ローンの融資需要DI(全回答に占める需要増加の割合-需要減少の割合)は11.5と、前回の7月調査(マイナス28.6)からプラスに転じ、融資需要の急回復が示された。個別行の回答内容をみると、設備投資や企業の買収・合併(M&A)への意欲が回復したほか、売掛金のファイナンスニーズが増加した模様である。また、融資基準DI(全回答に占める厳格化の割合-緩和の割合)は6.5と、前回調査(9.5)から低下したものの厳格化領域を保っている。厳格化したと回答した金融機関は理由として、経済見通しの不透明感に加え、業界個別の要因やリスク許容度の低下などを挙げた。9月に発生したサブプライム自動車ローン業者の破綻などを受けて、信用リスクの高まりへの警戒感を強め始めた様子がうかがえる。一方で、融資基準を緩和したと回答した金融機関は理由として、他の金融機関やノンバンクとの競争の激しさを挙げている。
家計向けの融資需要DIに関しては、クレジットカード(マイナス12.5→プラス4.3)が大きく回復した一方、自動車ローン(プラス5.8→マイナス19.2)は大幅な減少に転じ、信用不安の影響が顕在化している。融資基準DIでは、クレジットカード(10.4→4.2)では厳格化度合いが緩和し、自動車ローン(マイナス3.8→マイナス5.8)は緩和度合いが一段と強まった。7-9月期の新規延滞率は、住宅ローン(3.67→3.62%)と自動車ローン(7.95→7.79%)が前期比低下となった一方、クレジットカード(8.58→8.88%)が上昇するなど、まちまちな動きとなっている。
企業向け、家計向けともに、融資基準は厳格化の勢いが弱まるなか、融資需要が総じて増加したことが示された。ファイナンスニーズの高まりや競争激化による融資基準の緩和など、懸念される動きも垣間見える。米商業銀行のノンバンク向け融資残高は10月22日時点で1.7兆ドルと、昨年末(1.1兆ドル)から急増している。米経済は二極化が進展し、弱い部分に綻びがみえ始めており、ノンバンクの不良債権増加による景気減速を警戒したい。一方、金融機関は貸倒引当金を積み増す動きを続けているほか、米連邦準備理事会(FRB)による資金供給態勢を踏まえれば、金融システム不安に発展する可能性は現段階では低いと判断される。
投資調査部長
山口 真弘



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