外貨コラム ― 外貨を持つ理由
日銀の金融緩和政策の行方

更新日:2017/10/18
※本コラム内容は、2017年10月10日に作成したものです。

祖父江 康宏
祖父江 康宏
マーケットエコノミスト

リーマンショック発生から先月で10年目を迎えました。世界各国で政権交代や中間層の没落など、政治的、社会的な不安定化という後遺症を残しつつも、世界経済は「100年に1度」と形容される金融危機から立ち直りつつあります。その象徴が非伝統的金融政策からの脱却です。米国は9月20日、リーマンショック後に導入した量的金融緩和政策(QE)を終了し、米連邦準備理事会(FRB)のバランスシートの縮小を開始することを決定しました。ユーロ圏でも、2018年1月から現在実施中の資産購入プログラムを縮小するとの見方が強まっており、本稿執筆時点(10月10日)では未確定ながら、10月26日にも資産購入プログラムの縮小を決定する可能性が濃厚となっています。しかし、日本は「出口戦略」からほど遠い状況にあり、先進国で進むQE脱却から取り残されつつあります。

非伝統的金融政策のフロントランナー日本銀行

日本は1990年代後半の金融危機への対応として、2001年に世界に先駆けて非伝統的金融政策を導入しました。リーマンショック前の2006年に、一度はQEやゼロ金利政策からの脱却に成功しましたが、リーマンショック後の景気後退によって再び非伝統的金融政策に逆戻りしました。さらにアベノミクス「第1の矢」として導入された量的・質的金融緩和政策を皮切りに、2013年以降は金融緩和政策の規模拡大に拍車がかかり、現在は2000年代前半をはるかに上回る規模での非伝統的金融政策の真っただ中にあります。ただ、リーマンショック前に日本で実施された量的金融緩和政策の教訓は、リーマンショック後に米欧で実施された金融緩和政策に生かされました。例えば、かつて日本で「時間軸政策」と呼ばれていた「フォワードガイダンス」は、中央銀行の新たな金融政策ツールとして、今や世界的に定着しています。日本銀行は非伝統的金融政策のフロントランナーを担ってきたといえます。

極めて高い物価目標

ただし、非伝統的金融政策の「出口戦略」では、米欧に大きく後れを取りました。最大の理由は、物価の低迷が続いていることに求められますが、日銀は2016年9月21日に、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%の「物価安定の目標」を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」を導入し、「物価安定の目標」を安定的に上回る水準までは、一時的な物価上昇を容認する姿勢を示しています。日本では、消費税率引き上げ時を除くと、消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)上昇率が「物価安定の目標」の2%を安定的に上回っていたのは、1990年代前半まで遡らなければなりません。過去20年以上もの間、実質的に達成されていない現在の物価目標のハードルは極めて高い水準であり、現在の政策枠組みが見直される可能性は低そうです。

「出口戦略」では大きな困難に直面か

日銀はここ数年、新規発行国債を大幅に上回る規模での国債買い入れを実施してきました(図表1)。結果的に、債券市場では新たに日銀が買い入れ可能な国債が減少しています。細かい点では日本と事情が異なりますが、欧州中銀(ECB)が2018年1月より国債買い入れの減額を検討する理由も、同様の問題に直面していることに起因します。制度を維持するためには毎月の国債買い入れを減少させなければなりませんが、QE継続のために買い入れ額を減少させれば、投資家からは金融引き締め的と捉えられ、これまで醸成されてきた金融緩和期待が一気に反転する懸念があります。ドラギECB総裁が直面しているジレンマは、正にこの点になります。ドラギECB総裁や黒田日銀総裁は、金融緩和効果を高めるために、特に「期待」への働きかけを重視してきました。この結果、ECBは出口戦略の段階で市場の金融緩和期待に縛られてしまっています。日銀も今後迎える「出口戦略」では困難を極めることが想定されます。

■ 図表1:新規国債発行額と日銀の国債保有残高の増加メド
(兆円) 140 120 100 80 60 40 20 0 中長期債の市中発行額 うち新規発行額 日銀の国債保有残高の増加メド 2000 55.6 33.0 2001 64.9 30.0 2002 74.6 35.0 2003 79.7 35.3 2004 84.4 35.5 2005 88.4 35.5 2006 87.0 27.5 2007 85.7 25.4 2008 83.0 33.2 2009 98.3 52.0 2010 105.6 42.3 2011 107.6 42.8 2012 112.2 47.5 2013 119.4 40.9 50 2014 119.4 38.5 63 2015 116.8 36.4 80 2016 112.4 39.0 80 2017 106.6 34.4 80

出所:財務省、日本銀行

日銀によるQEの段階的縮小はすでに始まっている

日本でもQEの制度的な限界点が近づきつつあることは間違いありません。金融政策の枠組みは既に当時と変わっていますが、国際通貨基金(IMF)は2015年の時点で、日銀のQEについて、現状の国債買い入れは2017-2018年に限界が来るとの見通しを示しました。また、今年7月に退任した木内前日銀審議委員も2018年半ばには限界に達すると指摘しています。2018年には、日本でもQEの段階的縮小観測が高まってくるかもしれません。

ただし、ユーロ圏と異なり、日本では2016年9月21日に「イールドカーブコントロール政策」が導入され、10年国債利回りが概ね「ゼロ%程度」で推移するように長期国債の買い入れを行う枠組みに金融政策が変更されました。日銀は現在も年間約80兆円の残高増加を買い入れペースのメドとしていますが、実務面では、政策目標を国債保有残高から10年物国債金利の水準にシフトさせており、国債買い入れの「量」に対する目標はすでに形骸化しています。実際、10年国債利回りの水準を安定させるために必要となる国債買い入れ額を徐々に減らしており、公に表明しない形でQEを段階的に縮小する「ステルス・テーパリング」が進められています。実際に、日銀の保有資産残高の増加ペースは最近鈍化しています(図表2)。

■ 図表2:日銀の保有資産残高の推移
(兆円) 600 500 400 300 200 100 0 国債 指数連動ETF その他 QQE1 QQE2 YCC 10 11 12 13 14 15 16 17

(図注)QQE1:量的・質的金融緩和政策第1弾(2013年4月~)、QQE2:量的・質的金融緩和政策第2弾(2014年10月~)、YCC:イールドカーブコントロール政策(2016年9月~)

出所:日本銀行

2018年は日本にとって重要な1年

このようななか、安倍首相は9月28日に衆議院解散、総選挙の実施を表明し、来年まで実施がずれ込むとみられていた衆院選が10月22日に前倒しされることになりました(本稿を執筆している10月10日時点では選挙結果は判明していません)。自民党は衆院選の争点に、消費増税実施時の使途変更(子育て支援、教育無償化の財源拡充)などを掲げ、これに伴い、政府は財政健全化目標である基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化の達成時期を従来の「2020年」から「2020年代」に先送りしました。

政府と日銀は2013年1月に「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について(共同声明)」を公表しています。そこでは、日銀は「物価安定の目標の下、金融緩和を推進し、これをできるだけ早期に実現することを目指す」一方、政府は日銀との連携強化にあたり「財政運営に対する信認を確保する観点から、持続可能な財政構造を確立するための取組を着実に推進する」とされています。政府と日銀の政策協定(アコード)に対して、これまでのところ海外からは概ね高い評価が得られていますが、政府の財政健全化目標の先送りにより、日銀との関係にも、今後、変化がみられるかもしれません。

2018年は、4月に黒田日銀総裁の任期満了、9月に自民党総裁選を控えており、「アベノミクス」の「第一の矢」、「第二の矢」として、2013年より推進してきた緩和的な財政政策や金融政策についての節目の年となります。現時点では、両氏ともに再任の可能性を残していますが、仮に安倍首相や黒田日銀総裁が交代となれば「アベノミクス」への期待も一変してしまうかもしれません。今回の衆院選では、経済政策は中心的な争点にはなっておらず、国民の関心も必ずしも高いとは言えませんが、「アベノミクス」への信認とともに、今後数年の経済政策の方針も問われているといえそうです。今後の日銀の金融政策にも、決して無関係ではありません。

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