外貨コラム ― 外貨を持つ理由
ECB金融政策の今後の方向性について

更新日:2017/9/22
※本コラム内容は、2017年9月11日に作成したものです。

白鳥 朋子
白鳥 朋子
シニアマーケットエコノミスト

ユーロが上昇している。ユーロドルはフランス大統領選の第1回投票を控えた週末4月21日には1.07ドル台前半での推移だったが、同投票でマクロン氏が得票数で首位に立つと、5月7日の決選投票を待たずに1.09ドル台前半まで買い戻された。その後も底堅く推移したが、6月27日に開催された欧州中銀(ECB)フォーラムでドラギECB総裁が「金融政策の調整」を示唆すると、1.13ドル台半ばへ跳ね上がった。その間、米トランプ政権の政策不透明感や米国の物価が予想されていたほど上昇しないことも背景に、「敵失」ともいえる状況でユーロが買われ、2015年以来の水準となる1.20ドル台を付ける展開となっている。ユーロ円も年初来安値だった4月14日の114円台後半から足元は、2015年12月以来の水準となる133円台前半まで上昇している。市場はECBが好調な景気を背景に、ユーロ圏加盟国の間でも意見が割れていた非伝統的政策である資産買入プログラム(APP)を「調整」するとみている。先読みで上昇してきたユーロの今後の方向性について考察したい。

ECBは金融政策を「調整」する

9月7日のECB理事会では、声明文に「今後のインフレ軌道とインフレが目標である2%に近いが超えない水準に持続的に回帰するのに必要な金融状況を考慮して、我々は今秋にも、政策措置の調整を決める」との一文が追加された。前回7月の理事会後の記者会見でドラギ総裁が「政策に関する議論は秋に開始する」と述べたにとどまっていた。さらにさかのぼれば6月8日の理事会では声明文から、政策金利を現状より低くする可能性を排除しており、ガイダンスを修正しつつ、段階的に市場を誘導してきたといえる。こうした変化の背景には、ユーロ圏経済の足取りが底堅さを増し、ドイツ一人勝ちの状況からその他の国にも景気回復の裾野が広がってきていることがある(図表1)。ただ、ドラギ総裁は米連邦準備理事会(FRB)のように「金融政策の正常化(normalization)」という言い方はせず、あくまでも「調整(calibration)」としており、今後、ECBの見通しと異なり、景気が失速するような場合にも再び「調整」する余地を残している。

■ 図表1:ユーロ圏主要国のGDP成長率(四半期ベース、前期比)
(前期比%) 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 -0.5 -1.0 -1.5 -2.0 ユーロ圏全体 ドイツ フランス イタリア ギリシャ 14/9 14/12 15/3 15/6 15/9 15/12 16/3 16/6 16/9 16/12 17/3 17/6

出所:ユーロスタットより

ユーロ高への懸念はさほど高くない?

しかし、ECBは9月理事会で、政策の「調整」を予告する一方、スタッフの物価見通しを下方修正した(図表2)。「中期的にはECBの政策、景気拡大の継続、経済のスラック(たるみ)の吸収、賃金の上昇などに支えられて基調的なインフレは徐々に上昇する」との見通しを維持しているものの、2018年を1.3%から1.2%へ、2019年を1.6%から1.5%へと、小幅ながら見通しを引き下げた。ドラギ総裁はこの下方修正は主に最近のユーロ高によるものであると説明。記者会見では、いつものように「為替は政策目標ではない」としつつも、「為替レートは成長とインフレにとって重要だ」と述べ、ユーロ高を懸念する理事会メンバーが増えていることを認めた。また、「最近の為替の変動が不透明感の要因となっており、物価の中期的な安定に影響を及ぼすのか注視することはメンバーの間で広くコンセンサスとなっている」と、ドラギ総裁としては珍しく、為替について踏み込んだ発言をしている。ただ、豪州準備銀行やニュージーランド準備銀行などのように直接的に通貨高を牽制したわけではないうえ、メルケル独首相はじめユーロ圏の政治家からはユーロ高を歓迎する発言すら出ている。貿易黒字も高水準で推移しており、ユーロ高への懸念は現時点ではさほど高くないと考えられる。

■ 図表2:ECBスタッフによる物価見通し
(前期比%) 2.2 2.0 1.8 1.6 1.4 1.2 1.0 2017年3月時点 2017年6月時点 2017年9月時点 物価目標「2%に近いが2%を超えず」 1.7 1.5 1.5 2017 1.6 1.3 1.2 2018 1.7 1.6 1.5 2019

出所:ECBより

ECBの今後の金融政策

ECBの金融政策の今後について考えてみたい。今年の理事会は10月と12月の残り2回である。政策の調整は「今秋」に決めるとしている以上、10月に調整の詳細が発表されるだろう。現状の資産買入れプログラム(APP)に基づく月額600億ユーロの買入れは今年の12月で終了することが決まっているが、ECBの政策先行きへの市場の見方は分かれている。ECBは月次の買入れ額や終了の時期を示すのではなく、来年の買入れ総額を示すと、当行は予想している。買入れ額は1500億ユーロと予想しており、今年の7800億ユーロ(見込み)の約2割にとどまる計算だ。当行予想に基づけば、ECBは経済や市場の状態に応じて、購入額を調整する自由を手に入れることができる。さらに9月の理事会でドラギ総裁は、非伝統的な資産買入れ策を終了後に利上げを行うという現状の政策の手順については議論がなかったと明かしている。これを踏まえ、当行は利上げ再開については2019年と予想する。

ユーロはどこまで上昇するのか

具体的な方法は不明ながら、ECBは資産買入れの規模を縮小する方向にある。足元のユーロドルの水準である1.20ドル近辺は、ECBが国債の月額600億ユーロ買入れを決めた2015年1月の水準であり、ここまでのユーロ上昇は十分正当化されよう。ただ、今後については、ドルとの綱引きとなる。足元、ドルは米トランプ政権の減税等の政策の実現性に疑問が出ているなか、FRBの利上げペースが一段と緩やかになるとの見方が強くなっており、上値が重い。ただ、米経済に関しては物価の上昇率が高まらないことを除けば、トランプ政権の景気刺激策がなくとも底堅さを維持しており、FRBは9月19、20日の米連邦公開市場委員会(FOMC)において量的緩和策(QE1-3)で膨らんだバランスシートの縮小を決め、12月は追加利上げを行うと当行は予想している。カナダ中銀が想定を上回るGDPの伸びを受けて、物価の上昇を待たずに2回の利上げを行ったように、FRBも粛々と金融政策の正常化を進める可能性は高い。こうした見方に基づけば、ドルは次第に買い戻されよう。一方、ユーロ圏経済が堅調さを維持すれば、ECBの政策「調整」は続き、利上げ再開への期待もくすぶるだろう。そうであれば、ユーロの下値も限定的であり、スピード調整しつつも上値余地を広げていくとみている。

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