外貨コラム ― 外貨を持つ理由
地政学リスク×マーケットの関係性

更新日:2017/8/31
※本コラム内容は、2017年8月21日に作成したものです。

齊藤 聡
齊藤 聡
マーケットアナリスト

地政学リスクとは?

ここ最近、「地政学リスクの高まりを背景に金融市場では…」といった報道が頻繁に見受けられます。「地政学」という言葉は日常生活で用いる機会の少ない単語ですが、教科書的には「地理、政治、軍事といった環境の変化に伴う経済への影響を研究する学問」と説明されます。したがって、一般的に「地政学リスクの高まり」とは、「テロ、内戦や戦争などに起因した緊張の高まりを背景に、経済・金融市場の先行きが不透明になっている状態」と考えられます。

地政学リスクの高まりと金融市場の関係性

投資家にとっては地政学リスクとマーケットの関係性が気になるところかと思いますが、市場の反応にはいくつかの段階があると筆者は捉えています。まず、地政学リスクが高まると経済の先行き不透明感が強まり、株式、新興国通貨といった相対的にリスクの高い資産は売られます。ただ、そのまま売られ続けるか、と言えばそうとも限りません。時間が経過するにつれて関連情報が明らかになり、新たな悪材料がなければリスクの深さや広さに関する分析が進むことで投資家の「恐怖」や「不安」の度合いは徐々に和らぐと見込まれます。こうした市場参加者のリスク認識を映す指標として参考になるものの一つにシカゴ・オプション取引所が算出するVIX指数(別名「恐怖指数」)があります。

■S&P500種とVIX指数
(ポイント)2,600 2,400 2,200 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 S&P500種(左軸)VIX指数(右軸) 2012 2013 2014 2015 2016 2017 45 40 35 30 25 20 15 10 5


出所:シカゴ・オプション取引所(CBOE)、Bloomberg

一般的には、20以下で推移している状況が「平時」、20-30のゾーンでは「警戒」、30を超えると「総悲観」の状態とされます。近年では2015年8月に中国の景気減速懸念の高まりを背景にVIX指数は40(終値ベース)を超える流れとなりました。投資家心理が悲観に傾いた局面と判断されます。ただし、市場参加者の注目が中国に集まるなか景気減速の度合いが徐々に明らかになったうえ、当局による政策金利の引き下げなど景気刺激策も相まって金融市場は次第に落ち着きを取り戻していきました。この例からは、仮に各国経済に甚大な影響を及ぼす事象が発生したと判断される場合には、当該国の政府・中央銀行が対策を講じる可能性が高まるということもわかります。そのため、大統領、首相や各国中央銀行の総裁といった高官から発せられる情報にも注意を払う必要があります。

ここ最近の状況を確認すると・・・

目下、市場の注目を集めているのは北朝鮮と米国の間での軍事衝突の有無です。北朝鮮は7月28日に2回目となる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射し、ミサイル開発の進捗を誇示しました。また、8月8日には朝鮮人民軍戦略軍報道官が、北太平洋の米領グアム島周辺を中距離弾道ミサイル「火星12」で包囲射撃する作戦を計画していると威嚇しました。ただ、その後、同15日に金正恩・朝鮮労働党委員長が「米国の行動をもう少し見守る」との見解を明らかにしたことで、本稿執筆時点では米朝関係を巡る緊張がやや緩和している状態です(8月21日時点)。

■日経平均株価とドル円
(1ドル=円) 120 118 116 114 112 110 108 ドル円(左軸) 日経平均株価(右軸) 17/01/01 17/02/01 17/03/01 17/04/01 17/05/01 17/06/01 17/07/01 17/08/01 4月5日:北朝鮮が日本に向けて弾道ミサイルを発射 4月16日、29日:北朝鮮がミサイルを発射したものの失敗 7月28日:北朝鮮がICBMを発射。 8月8日:北朝鮮が米領グアム島周辺へミサイルを発射する可能性を示唆。 (円)20,400 20,000 19,600 19,200 18,800 18,400 18,000

出所:Bloomberg、各種報道に基づきSMBC信託銀行作成

北朝鮮との国境に接している韓国の文在寅大統領は、軍事攻撃のレッドラインについて「ICBMを完成させてそれに核弾頭を搭載して兵器化すること」としており、ミサイル開発の行方が注目されます。北朝鮮の建国記念日である9月9日までは気の抜けない状態が続きそうです。また、スペイン東部バルセロナとその近郊では8月17、18日に複数のテロ事件が発生しました。一連の事件に関して、過激派組織ISが犯行声明を公表しています。ISの戦闘員になるためシリアやイラクに渡った若者が欧州各国に帰還しているとの報道もあり、いつテロが起こってもおかしくないものとみられます。北朝鮮によるミサイル発射やテロが現実となれば、金融市場では株式をはじめとするリスク資産が売られ、外国為替相場では近年の流れ通り円やスイスフランが買われる展開になるとみられます。その場合、先行きを展望するうえでは攻撃の内容を慎重に見極める必要があります。ただし、今後の世界経済に甚大な影響をもたらすものでなければ一時的な値動きにとどまる可能性もあると筆者は考えています。

バックナンバー

本資料は情報提供を目的としてSMBC信託銀行が作成した資料です。SMBC信託銀行はここに記載された情報が十分信頼に足るものとして信じておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。また、その情報を使用することにより生ずる、直接または間接のいかなる損失に対しても、責任を負うものではありません。本資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。投資の選択や投資時期の決定は必ずご自分の判断でなさるようお願いいたします。

ページの先頭に戻る