外貨コラム ― 外貨を持つ理由
日米金融政策を通してドル円相場を考える

更新日:2017/7/3

二宮 圭子
二宮 圭子
シニアFXマーケットアナリスト

ドル円は年初118円60銭でピークアウトした後、4月17日に108円13銭の安値を付けて底入れしたと思いきや、5月10日には114円37銭で再び上値を抑えられた。足元は5月の消費者物価指数(CPI)や小売売上高など米経済指標の悪化を受けて、6月14日に108円83銭まで急落したが、米連邦公開市場委員会(FOMC)の政策決定を受けて反転上昇し112円台を視野に入れる展開となっている。米経済指標が市場予想を上振れ・下振れしたほか、トランプ米大統領の度重なる不用意な発言によってドル円は振幅を繰り返したが、その値幅は過去6カ月間でわずか10円程度にとどまっている。こうしたなか、日米の金融政策に変化の兆しが表れており、ドル高・円安の調整は最終局面に来ているのかもしれない。

米金融政策は正常化へ向かう

米連邦公開市場委員会(FOMC)は6月13、14日の会合で、FFレートの誘導目標を25bps引き上げて1.00-1.25%とした。声明文では、「経済が米連邦準備理事会(FRB)の予想通りに進めば今年、バランスシート(B/S)の正常化プログラムの実行を開始すると予想」とガイダンスが修正された。FOMCメンバーによる金利予測分布図(ドットチャート)は中央値が2017年末は1.375%(あと1回の利上げ)、2018年末は2.125%(3回の利上げ)として3月時点の予想とほぼ変わらず。ただ、同時に公表された付録文書、「金融政策正常化の原則と計画」では再投資額の上限を米国債が300億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)などが200億ドルに達するまで3カ月毎にそれぞれ月額60億ドル、40億ドルずつ引き上げていく、として今後の量的緩和縮小(テーパリング)のスケジュールが詳細にわたり記された。イエレンFRB議長は、「B/Sの縮小を比較的早期に実施することもあり得る」との見解を示したうえ、B/S縮小と利上げを同時に行う可能性も否定せず、従来よりもタカ派色の強い印象を与えた。これらの点を総合的に判断し、B/Sの縮小は9月に発表されるが、インフレ率の持ち直しを確認したうえで次の利上げは12月に後ずれするとの見方に当行は予想を変更した*¹。

日銀の出口戦略は2018年夏以降に

一方、日銀は16日の金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)と資産買い入れ方針の現行維持を決定。長期国債の買い入れについては「保有残高の増加額、年間約80兆円をメド」としている。ただ、昨年11月をピークに買い入れ額は減少傾向をたどり、過去3カ月間は年換算50-59兆円まで減額したため、日銀も金融緩和の出口を模索し始めたとみる向きは少なくない(図表1)。黒田日銀総裁は会合後の会見で、「米国債の利回りが低下傾向をたどるなか国債買い入れを拡大する必要はなくなった」と説明したが、「2%の物価安定目標までかなりの距離があるため、現時点で出口の手法と順序を示すのは難しい」と言及を避けた。それでも、「中銀が直接的にコントロールできるのは短期金利と国債買い入れ額」と指摘しており、金融政策の正常化は徐々に始まることとなろう。現在0%程度で推移している10年国債利回りを2018年夏に、マイナス0.1%の短期金利を2019年4月に引き上げるとみている。リスクシナリオは利上げが最も早いケースで、2018年4月の黒田日銀総裁の退任後、次期総裁が金利政策の正常化に着手、春闘を見極めて4月に利上げする場合である*²。

■図表1: 米10年債利回りと日銀の国債買い入れ額
(%) 3.25 3.00 2.75 2.50 2.25 2.00 1.75 1.50 1.25 1.00 日銀の国債買い入れ額(過去1年間、右軸) 米10年国債利回り(左軸) (兆円) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10  2013 2013 2014 2014 2015 2015 2016 2016 2017

出所:日銀、Bloomberg

日米実質金利差にみるドル円

米国では5月のCPI上昇率が前年比1.9%と2月(同2.7%)をピークに鈍化傾向が続くなど、最近のインフレ指標には下振れが目立つ。将来の予想物価上昇率を表す期待インフレ率(5年先5年物インフレスワップ)は年初2.61%台まで上昇したが、原油安も相まって足元は2.12%台まで低下。名目金利(10年国債利回り)から期待インフレ率を差し引いた実質金利は一時マイナス0.03%台まで落ち込み、日米実質金利差は昨年末の0.66%台から0.25%台まで縮小した。日米実質金利差の縮小はドル安・円高要因ととらえられ、ドル円の上昇を阻んだ(図表2)。

■図表2: ドル円と日米実質金利差
(円) 130 125 120 115 110 105 100 95 ドル円(左軸) 実質金利差(米国ー日本、右軸) (%) 1.25 1.00 0.75 0.50 0.25 0.00 -0.25 -0.50 2015/01 2015/05 2015/09 2016/01 2016/05 2016/09 2017/01 2017/05

出所:Bloomberg

クロス円の動向にも注目

FRBと日銀の政策指針に鑑みれば緩やかなドル高・円安の基調に戻ると判断されるが、足元の相場はドル安主導で重堅い印象を受ける。こうしたなかで、4月下旬以降ドル円をサポートしたユーロ円やポンド円が下げ渋るかどうか、カナダドル円や豪ドル円が騰勢を強めるかどうか、ドル円を展望するうえでクロス円での円の動きも見逃せない。早ければ、欧州中銀(ECB)は9月7日の理事会で2018年以降の国債を含む資産購入プログラム縮小に向けた計画を公表する可能性もある*³。また、金利先物市場では英中銀やカナダ中銀による年内の利上げ確率が上昇しており、ポンド高やカナダドル高を通じて円安基調の素地は整いつつある。短期的には地政学的リスクや欧州などの政局混迷に伴う市場心理の不安が円高を促す場面もあろうが、中長期的には欧米を中心とする主要中銀の金融政策の正常化が当該国通貨の上昇要因として意識され、円安基調が広がっていくとみている。

出所:*¹ 「米国経済ウィークリー」, 2017.6.19, *² 「日本経済フラッシュ」, 2017.6.19, *³ “Global Economic Outlook and Strategy”, 2017.5.24, Citi Research

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